【感想備忘録】:『Tamarin(タマリン)』(PS4/PC)

投稿者: | 2020-11-08

かつてイギリスのレア社に在籍され、『スーパードンキーコング』シリーズ、『バンジョーとカズーイの大冒険』などの名作に携わったベテランクリエイターたちによって制作されたPlayStation 4PC(Steam)向け新作アクションアドベンチャー『Tamarin(タマリン)』。

どう見ても『スターツインズ』(※)まんまな戦闘シーン、アリの兵士たちに強烈な関心を抱いて、9月10日の発売と同時にPS4版に突撃し、エンディングまでやり切った。しかし、なんというか……古臭すぎる凡作だった。前述の3作を思い出させる要素は多く、そこは当初の期待に違わなかった。
だが、肝心のゲームは幾ら何でも時代錯誤がすぎる出来。

※1999年発売のNINTENDO64タイトル。レア社開発作品、販売は任天堂。2020年現在はXbox One専売の『レア・リプレイ』にて、英語兼HDリマスター仕様の『Jet Force Gemini』が遊べる。

ゲームとしては3Dアクション。主人公のタマリンを操作し、環境破壊を繰り返す昆虫軍団に捕まった家族を救出するため、彼らとの戦いを繰り広げながら、様々な土地を駆け抜けていくというもの。

本編の流れは『スターツインズ』ほぼそのまんま。複数のエリアから成るワールドを順番に攻略していく形で進む。エリアごとのクリア条件も出口(ゴール)に到達するだけと、これまた『スターツインズ』。ご丁寧にも、敵を全滅させるとロックが解除されるゲートと言った『スターツインズ』由来の仕掛けも登場する。

極め付けと言わんばかりに昆虫軍団の兵士も『スターツインズ』のアリたち、「ドローン軍団」そのものである。というか、倒した時の悲鳴まで『スターツインズ』の流用。さらに倒し方によっては、四肢がバラバラになって飛び散る演出まである。体液は『スターツインズ』ほどブシャブシャ飛び散らないものの、思わずギョッすること請け合い。
逆に『スターツインズ』を知る人なら、懐かしい気持ちになる演出になっている。

なお、エリアにはアリの兵士たちとの銃撃戦が展開されるシューティングエリア(※勝手に呼称)、広大な箱庭エリアを探索しながら「ホタル」を集め(捕まえ)、閉ざされた扉の開放を目指すアクションエリア(※これも勝手に呼称)の2種類がある。前者では銃火器を照射、使い分けながらの戦闘になるが、後者はそれらが使えず、ローリングアタック、ジャンプなどのアクションを駆使して進めていくスタイルになる。キーアイテム回収課せられる点で『バンジョーとカズーイの大冒険』、あるいは『ドンキーコング64』みたいなものと言えば想像しやすいかもしれない。

ここまでをまとめるなら、レア社黄金期の名作いい所取りである。
なのだけど、まあ……物申したい箇所、山のごとし。

特にカメラ。上下リバースの設定が不可能、キャラクターを下から見上げるようなデフォルト視点(※段差をジャンプで飛び越える際には寄り下側に傾く)、壁を背にすると引っかかるなど、全てにおいて作りが古臭い。
最も気になったのがデフォルト視点。3Dアクションに苦手意識のある人なら重度の3D酔いを発症するのでは、と思うほどだった。というか、ある程度慣れている(と思っている)自分でも何度か酔って中断することがあった。

▲オプションにはこれしか項目がない。キーコンフィングも不可。

上下リバース設定ができないのも、酔いを誘発する要因のひとつになっていた印象。
そもそも、今時設定不可は無いだろうと言いたくなる。リバース設定の操作が身に染み付いてしまっている身として、これには猛烈なストレスを感じた。
いずれアップデートで追加実装されるかも、と期待して待ってみたけど、2020年11月現在でも実装される気配なし。端から実装する気無しのようで呆れるしかない。(※注:以下追記あり

同じ元レア社のクリエイターが作った3Dアクションゲームの『ユーカレイリー』は普通に設定可能なのに、なぜこちらはできないのか?考え方の違いなのかは分からないけど、こうも差が出るものなのかと悪い意味で驚いた。

また、『スターツインズ』まんまなシューティングエリアにも不可解な仕様が。
ひとつに狙い撃ち(エイム)の操作。
なぜ決まってズレるのか?(※慣性が働いていて、合わせようと上下に照準が”ズルッ”と動いてしまう)

もうひとつにロックオン。
なぜ高台に居る敵にしか効かず、地上にいる敵に対しては無効なのか?

いずれもこの仕様でゴーサインを出したのが理解に苦しむ。普通にストレスを誘発する要素になっているに加えて、操作感を気持ち悪いものにしてしまっている。
さらに『スターツインズ』の時には存在したオートエイム(補正)もない。なので、戦闘では割と正確な狙い撃ちが求められがち。しかも、その際でもお構いなしにズレる。昨今のTPSに限らず、FPSに慣れた人ならブチ切れ確実。本当に今時これはないだろう、おかしいだろうと物申したくなる出来になってしまっている。

そして、アクションエリアのマップ構成。道の繋がりが分かり難くて迷いやすい(ついでにミニマップもない)、随所でギリギリジャンプが求められるなど、細かい部分で詰めの甘い部分が目立つ作りになってしまっている。

ここではアリ以外の昆虫軍団の敵が多数登場するのだが、彼らの歩行音もやたらリアルで気持ち悪い。ヘッドホンを装着してプレイすると、それがなおのこと際立つ。虫が敵だからということで、そのように設定したのかもしれないが、それにしたって無駄なこだわりがすぎる。デザインもディフォルメされているとは言え異様に生々しく、個人的には蛇(しかもモチーフはガラガラヘビ)の動作全般は本気で鳥肌が立つほどゾッとした。幼い頃にプレイしたら、間違いなくトラウマになっている。これを虫嫌いな人がプレイしたらどんなことになるか……。

アリたちは『スターツインズ』と同じ容姿なんで、逆に「久しぶり!」と言いたくなる懐かしさがあり、生々しさもホドホドに抑えられていたように”自分は”思ったが、他の敵もそれぐらいに抑えてくれればと思ってしまった。
そのこととマップの作りの悪さもあって、アクションエリアに対する印象はズタボロです。扉を開けるために必要な「ホタル」の必要数も妙に多くて水増しに加え、手に入れる際にも無駄に手数を踏まされることが何度も……。

他にボリュームも少なく、ストーリー的に大きな起伏も無く終わってしまう。そもそも、エンディングが絵に描いたような尻切れトンボ。あんなのアリかと思ってしまった。アリだけに。開発チームはこの終わり方で納得しているのか、と質問したくなる違和感も。何か止む無き事情であのオチに終えたように見えてしまったのだが……邪推だろうか。

長々と綴ってしまったが、本当にやればやるほど、時代錯誤がすぎる点や奇妙な仕様に対する不満が膨れ上がっていく。所々でクリエイターの価値観の古さが露わになってしまっていて、残念な気持ちにさせられる一方だった。仮に狙ってそうしているのだとしても、カメラ周り、エイム、マップ構成は看過できたものじゃない。むしろ、昔に出しても批判されるだろうと思えるほど、褒められた作りじゃなかった。

全体を見て、文句の付け所が無かったのはグラフィック全般と音楽。中でも後者はデビッド・ワイズ氏が担当しているだけに盤石。効果音も虫の歩行音はやり過ぎだったが、他は昔ながらのゲームらしい仰々しさを強調しているのが見事。ロケーションも自然から工場など、初代『スーパードンキーコング』が脳裏を過ぎる懐かしさがある。

ストーリーもテキストはほぼ用いず、キャラクターの動作で描くことに徹していたのが印象的。「メモワール」というアイテムを集めることで、シーンごとのストーリー(あらすじ)をゲーム開始時に振り返れるようになるけど、このテキストが詩的な表現でまとめられていたのも素晴らしかった。日本語の翻訳を担当された方のセンスが際立っている。

そういう良い所が、古臭い部分によって台無しにされているのがもどかしい限り。レア社作品だと納得させられる空気感、手触りは確かにあった。けど、この仕様で今の時代に出すのは厳しいだろう、いや昔でもマズいのでは……と言いたくなるほど、残念さが滲み出た3Dアクションゲーム。
もう少し、今なりの調整も施した内容に仕上げた上で出して欲しかった。

言うまでもなく、あまりおすすめできたゲームではない。特に3Dアクションゲームが苦手、酔いの耐性が無い人は迂闊に手を出さないように気を付けて、と注意しておく。虫嫌いもまた然り。蛇が苦手ならなおのこと。あの頃のレア社の雰囲気を改めて感じたいなら、遊んでみる価値は一応ある……かもしれない。

ちなみに公式サイトによれば現在、Xbox One版が開発中らしい。Nintendo Switch版に関しては現時点で不明の模様(出すにしても技術的な問題から、大分先の話になってしまうとか)。正直、どのゲーム機で遊ぶにしても厳しい出来なことに変わりはないので、安易に飛びつかない方がいい……と記しておく。
他機種版を出すに当たって大型アップデートを実施するのなら話は別だけど。

しかし、Steamストアページにメタスコアが掲載されているけど、予想だにしない数字で苦笑いしてしまった。ある意味、本作の時代錯誤っぷりを象徴しているとも言える……。(一応、遊べる出来ではあるんだけどね……)


※2021/7/4 追記

その後のアップデートでカメラの上下リバースは設定可能になった。
現時点では若干ではあるものの、操作性は改善されている。