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≫ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者


■発売元:任天堂 / ■開発元:MAGES.(ASADA PRODUCTS)、M2 /
■ジャンル:テキストアドベンチャー / ■CERO:C(15歳以上対象) ※暴力・出血表現あり /
■定価:4,378円(税込:ダウンロード版)、9,980円(税別:COLLECTOR'S EDITION)

◆公式サイト / ストアページリンク
≫『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』(任天堂公式サイト)
≫『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』(My Nintendo Store)

◆オリジナル版(ファミコン ディスクシステム)
≫『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者(前後編)』(FCD)

©1988, 2021 Nintendo / TOSE CO., LTD. / MAGES.
▼Information
■プレイ人数:1人 / ■セーブデータ数:4つ(※ユーザーごとに作成可) /
■必要容量:1.8GB(ダウンロード版) / ■対応機器:Nintendo Switch Proコントローラー /
■推定クリア時間:8~10時間


天地(あまち)と名乗る男に助けられた”あなた”は自分の名前を始め、いっさいの記憶を失っていた。天地によれば、”あなた”は「海上(うなかみ)の崖」から転落するも、運よく途中の草むらに落ちて九死に一生を得たという。

だが、どうして自分は崖にいたのか?手当を受け、崖へと再訪した”あなた”はそこで橘(たちばな)あゆみと名乗る少女に出会う。彼女によれば、”あなた”は私立探偵・空木俊介の助手として数年前から仕事をしていたという。

空木の事務所へと戻った”あなた”は、そこであゆみから自らが書いた「明神村 綾城」なるメモを見せられる。それと共に自分の名前を思い出した”あなた”は、メモに書かれた明神村に何かがあると感じ、ひとり現地へと向かう。
そこで”あなた”は、ある財閥当主の不審な死を調査中だったことを知る。

かくして、おぼろげな記憶を頼りに”あなた”は調査を再開した。
その先で待つ真実とは?そして、なぜ”あなた”が記憶を失ったのか?
▼Pros cons Pick up
--- Good Point ---
◆現代風にアレンジされど、ストーリーの流れを味わうという元の魅力はそのままのゲームデザイン
◆ボタンによる早送り、既読スキップ導入によるゲームプレイ全般の快適性向上
◆背景のみならず、キャラクターの所作も細かく描かれるようになり、劇的に進化したグラフィック
◆デザインの刷新とモブへの固有の立ち絵設定により、個性の強さがさらに極まった登場人物たち
◆原作の雰囲気を尊重した編曲で仕上げられた音楽(なんと原作の楽曲に切りかえることも可能)
◆流れを自然にするための加筆と一部イベントの追加で、さらに完成度が高まったストーリー
◆「あらすじ」「調査メモ」といったスーパーファミコン版『うしろに立つ少女』から継承された便利機能
◆ストーリーの盛り上げと同時に意外な親和性の高さが発揮されたフルボイス演出
◆往年の『ファミコン探偵倶楽部』ファンをニヤリとさせる声優陣(特にあゆみ役の皆口裕子氏)
◆ボイスOFF、ドットフォント設定など、様々な欲求に応えてくれる充実したオプション周り
◆これぞ現代リメイクの真骨頂とも言える、素晴らしいアレンジが成された終盤のイベント
◆原作の一部難点解消(既読テキスト、終盤前の現場調査、エンディングの描写不足が改善!)

--- Bad Point ---
◆現代風リメイクの宿命ともいえる恐怖感の低下(事件シーンの不気味さは明らかに落ちている)
◆なぜか原作から未修正の無駄なコマンド挿入問題(ただ、早送りとスキップのおかげで快適になっている)
◆基本、前回のプレイにおけるストーリーをおさらいするだけと素っ気ない作りの「あらすじ」(スーパーファミコン版『うしろに立つ少女』の「あらすじ」を知っていると、明らかに見劣りする仕上がり)
◆原作そのままのボリューム(スーパーファミコン版『うしろに立つ少女』にあった追加要素とかはない)
◆新曲皆無の音楽(スーパーファミコン版『うしろに立つ少女』のような全く新しい曲はない)
◆原作同様、重要なのに”ぽっと出”感が強すぎる登場人物の存在(出番は増えず……)
▼Game Overview
「33年の時と23年の無念を経て、我、新生す……」



◇1988年にファミコンディスクシステム用タイトルとして発売され、恐怖心を煽る巧みな演出とストーリーで好評を博したテキストアドベンチャーゲーム『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』のフルリメイク作品。開発は『STEINS;GATE(シュタインズゲート)』など、『科学アドベンチャー』シリーズで知られるMAGES.。内部的にはリメイク版『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』、『PSYCHO-PASS サイコパス 選択なき幸福』を手がけた浅田誠氏率いるチーム「ASADA PRODUCTS」が担当している。一部のサウンド絡みで『セガ 3D復刻プロジェクト』で知られる「M2(エムツー)」も参加。

◇基本の作りとストーリーは原作のディスクシステム版を踏襲。探偵助手の主人公になり、明神村で起きた財閥当主の不審な死を調査していくというものである。コマンドを選んで場所を移動したり、周囲に怪しいものがないか探ったり、関係者への聞き込みを行うといったシステムも続投。ただし、コマンドの位置は原作とは異なり左側になり、専用のウィンドウを設けて表示されるものへと改められた。また、解像度が上がったのに伴い、場所ごとの風景も詳細に描かれている。もちろん、登場人物たちのデザインも一新。原作では制約の関係で簡易的な描写に留められていた登場人物も、表現力向上によって真っ当な(?)容姿が描かれている。さらに原作では台詞のみでの登場となった村の住民、看護婦、会社員といったモブも新規の立ち絵が描き起こされた。一部のモブに至っては、原作にはなかった台詞に小さなイベントも追加され、事実上の新キャラクターになっている。このアレンジの方針はスーパーファミコン版『うしろに立つ少女』を踏襲している。

◇スーパーファミコン版『うしろに立つ少女』から継承したものでは「あらすじ」と「調査メモ」がある。前者はゲーム再開時、ヒロインのあゆみの語りと共に現時点のストーリーを振り返る機能で、スーパーファミコン版『うしろに立つ少女』のように専用の演出も盛り込んだ凝ったものではない、簡易的な機能になっている。「調査メモ」はスーパーファミコン版『うしろに立つ少女』とほぼ一緒で、出会った登場人物の情報を閲覧できるほか、ストーリーの進展に応じて個々の情報が更新される仕掛けも備わっている。
今回独自の新要素では「ボタンによるメッセージスキップ」「既読スキップ」「オート機能」がある。いずれも現代のアドベンチャーゲーム、ノベルゲームでは定番のものだが、いずれも原作には存在しなかったもの。これにより、快適にテキストを読み進めていけるようになった。また、オプションでは各種音量の調整機能のほか、メッセージフォント、音楽・効果音の変更も可能。後者は設定を変更することで、原作のファミコンディスクシステム版の楽曲と効果音で本編を楽しめるようになる。ほかに細かい変更点として、「調べる」コマンドによる調査時、怪しい所にカーソルを合わせた際にそこに何かあることを指す吹き出しが表示されるようになった。怪しい部分もグラフィック的にも分かりやすく強調されるようになり、しらみ潰しに調べる手間が軽減されている。

◇ストーリーは原作そのままだが、前述のように一部、新しい台詞とイベントが追加。また、昭和が舞台であることを感じさせる描写が背景などで増加している。さらに原作では若干、歯抜けになっていた部分にも加筆が行われ、ストーリー全体の流れが分かりやすくなったほか、スーパーファミコン版『うしろに立つ少女』同様に章単位による区分けも実施されている。
もうひとつ大きな変更点で、登場人物全員の台詞がフルボイス仕様になった。ボイスが苦手という人に配慮したOFF設定機能も万全なほか、「主人公だけは喋らないで!」という欲求にも応える独自設定も用意されている。登場人物絡みでは、他に会話中に両手を広げたり、手を合わせる、敬礼するといった動きを見せるようになっている。これらはプロデューサーの浅田氏いわく、2Dアニメーション制作に特化した「Spine(スパイン)」によって実現している模様。

◇総じて現代の技術を結集して再構築された『ファミコン探偵俱楽部 消えた後継者』となっている。一部、スーパーファミコン版『うしろに立つ少女』のシステムも採用されるなど、23年の悲願と年月の重みを実感させられる部分もチラホラ。
▼Review ≪Latest Update :5/14/2023 | First Publication Date:5/14/2023≫
よくも悪くも現代版『消えた後継者』として、入念に作り込まれた力作だ。
特に凝っているのが登場人物たちの一挙一動まで、細かく表現されたアニメーション。原作のディスクシステム版は基本、立ち絵主体で、アニメーションといっても主に動くのは口元ぐらいだった。
本作ではそれに留まらず、表情がコロコロ変わったり、前述に記した動作も取るようになって、非常に生き生きとした存在として描かれている。立ち絵のバリエーションも増えているほか、事件を始めとするストーリーの節目に発生するイベントの新規の一枚絵(スチル)も用意され、全体的な臨場感もパワーアップ。特定人物との会話でやたら凝ったカットイン、ショートムービーが挟まるなどの新たな演出も盛り込まれるようになり、より印象に残りやすくなっている。細かいところでは、なんと背景にいるモブの登場人物たちまで、他の人と雑談している、聞き込みをしているといった様子までもがアニメーション付きで描写。本当、どこを見ても「そこまで凝るか!」と言いたくなるぐらいに作り込まれたものになっている。

ゲーム部分も、原作のストーリーを味わうことを第一としたゲームデザインとその魅力は一切変えずに踏襲。そこに現代のアドベンチャーゲーム、ノベルゲームの基準に合わせたシステムを導入したことにより、格段に遊びやすくなった。とりわけ既読のメッセージ、台詞をボタンで早送りしたり、スキップできるようになったのは大きい。原作はそれらができず、無駄な時間を要すという難点があっただけに、それが可能というだけでも原作経験者なら感慨深く感じるのは請け合いだ。

調査と謎解き周りもいい感じに改善されている。調査に関しては、吹き出しと怪しい所の「?」表記により、しらみ潰しをする手間がなくなった。これらを調べた際、正解を引き当てたかのような効果音が鳴り響くようになったのもナイスな改良点だ。また場面によっては光を出したり、周囲と浮くようにデザインするなど、ひと目で怪しいと分かる工夫も施されている。特に原作の大きな難点でもあった、終盤のしらみ潰しイベントは劇的に分かりやすくなっている。ストーリー的にも分かりやすなったことに説得力を出すアレンジ(イベントの変更)が施され、一連の展開を自然に受け入れられるようにする工夫を凝らしているのが見事だ。

同じアレンジは、最終局面で発生する”大きなイベント”でも実施されている。これが原作経験者であれば鳥肌が立ってしまうほどの完璧な現代リメイクとなっている。しかも、原作にはなかったプレイヤーがどこにいるのかを示す救済措置も追加。この救済措置が素晴らしく、ゲーム側で用意した単なる機能ではなく、ストーリー上必然性のある機能として描かれている。ネタバレになるので詳しくは言えないが、これは原作経験者ほど「その手があったか!!」と唸りに唸りまくってしまうはずである。かくいう自分は唸りに唸りまくった。本当に見事すぎるアレンジになっているので、ここ体験するだけでも本作をプレイする価値はある。「あれ嫌だったんだよなぁ……」との苦い思い出が残っている人も体験いただきたい。きっと「すげぇ!」と声に出てしまうだろう。

ストーリーも一部、前述の看護婦に象徴される追加イベントがあったりするが、大筋は原作を踏襲。しかも、場面ごとの繋ぎを自然にするための肉付け、章ごとの区分けが図られたことで、全体的な完成度も底上げされている。何より、原作の惜しい所だったエンディングの描写不足が補強されたのはデカい。
また、原作では名前だけに終わったキャラクターに出番と専用の台詞が設けられた。「ここぞ」という場面で登場するようになり、ストーリーの背景を深める恩恵をもたらしている。デザイン面でも原作では諸々の事情でネタキャラクターと化していた「大西克子(おおにし かつこ)」のように、別人になった人物がいるという見所がある。これ自体はスーパーファミコン版『うしろに立つ少女』にもあったものだが、本作でも生まれ変わったキャラクターたちに一喜一憂する楽しみは健在だ。

そして、本作ではそれぞれの登場人物が喋るようになった。これはスーパーファミコン版『うしろに立つ少女』にはない、本作ならではの魅力だ。しかも、主要人物に限らず、脇役やモブに至るまで個別の声優を配役するこだわりぶりである。
また、フルボイスはストーリー本編との親和性も高い。特に終盤からエンディングにかけての展開は、フルボイスによって元々涙腺を刺激しやすいメッセージの数々が非常に響きやすくなっている。ボイスが付いたことで、愛着が湧きやすくなった登場人物も多数いて、その中でも主人公の調査を手助けする人物で、原作でも本編屈指の”癒し”の存在でもあった熊田医師はその恩恵を最も実感させられるはずだ。原作では完全な脇役だった、熊田の医者で働く看護婦の出番が増えている所にも注目。

肝心の配役もベテラン、若手を中心に揃えていて(以下、敬称略)、中でも驚きなのが橘あゆみ役の皆口裕子。なんと幻のシリーズ3作目『BS探偵倶楽部 雪に消えた過去』以来となる続投である。これはシリーズ経験者ならグッとくること請け合い。何より、開発スタッフが『BS探偵俱楽部』を忘れていない事実に嬉しくなるだろう。
そんな訳で、次はぜひリメイクしてください(切望)。

また、主人公役にも様々な少年探偵を演じてきた緒方恵美、天地役には『ファミコン探偵倶楽部』のファンであることを一部にて公言していた杉田智和という、分かる人ならばニヤッとしてしまう配役も。他にも綾城家とその関係者には木下浩之、堀内賢雄、田中敦子、樋浦勉というベテラン勢を配役。協力者と関係者絡みでも岩崎ひろし、小清水亜美、石飛恵里花といった吹き替え絡みのベテラン、実力派、若手が起用されている。そして、モブのひとりに千葉繁である。モブ役に千葉繁である(大事なことなので二回書いた)。一体、どうしてそんなことにだが、見ればわかるということで。

ボイスが苦手な人のため、原作の効果音で楽しめる設定を用意しているのもナイスな配慮だ。しかも、音楽まで原作のに変えられる。こだわりが過ぎる。それどころか、メッセージフォントにもドット調のものを用意。さすがにグラフィックまでは原作のものに差し替えられないが、可能な限り原作が好きな人のための環境を用意するという配慮は、以前『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』のリメイク版を手がけたチームだけにあるといったところ。

このような具合に全編に渡って入念な作り込みが施されており、力作というに相応しいリメイクに完成されている。
だが、リメイクとしての宿命が現れている部分も。大きいものでは恐怖を煽る演出。グラフィック、音楽の強化によって情報密度が増えたのに伴い、原作にあった無意識に想像力が働き、脳内補完して恐怖感が増してしまう現象は起きにくくなっている。事件シーンにおけるグラフィックも現代向けのアレンジがされたなりに派手になったが、無機質な雰囲気が除かれたのもあって、不気味さは低下している。この辺りはまさにリメイクの宿命だ。そのため、原作に強い思い入れがある人ほど不満を覚えることは避けられないだろう。(個人的には終盤に発見される”アレ”は綺麗になり過ぎだと感じた)

ただ、原作の視点抜きであればシーンごとの不気味さは楽曲込みで十分に表現されている。また、対象年齢の引き上げに伴い、細かい部分の描写が生々しくなっている。特に原作では後編の始まり早々に起きた事件に関しては、(いい意味で)現実に忠実すぎではと思えるほど生々しい描かれ方をしているので注目である。

リメイクの宿命抜きに気になる場所もある。特にコマンド。原作では現在の場面に相応しくないコマンドが紛れ込むことがあり、聞いても大した情報が得られないという無駄な時間が生じる問題があったが、なんとリメイクでも改善されていない。一応、早送りとスキップのおかげで若干の改善はされているのだが、わざわざ残す意図が感じられないのも事実。思い切って削るか、もしくはスーパーファミコン版『うしろに立つ少女』みたいな工夫を凝らして欲しかったところである。 そんなスーパーファミコン版『うしろに立つ少女』では、一部の場面に新曲が追加されるアレンジもあったが、本作ではほとんど追加されていない。厳密には1曲だけあるにはあるのだが、スーパーファミコン版『うしろに立つ少女』の警察署のような聴いたことのない楽曲ではない。できれば2~3曲ぐらいあってもよかったように思う。いくつか、新曲に改めてもよさそうな場面があっただけに勿体ない。

他にコマンド周りでは、カーソルのレスポンスが鈍いのも気になる部分。また、スーパーファミコン版『うしろに立つ少女』には2周目向けのやり込み要素が新たに追加されていたが、本作にその手のものはなし。なので、ボリュームも原作とほぼ変わっていない。これはこれで余計なアレンジがなくていいのだが、何かひとつぐらい入れても良かったように感じるところだ。

以上のようなリメイクとしての宿命、(なぜか)改善されていない部分もあることから、原作経験者には賛否が分かれる仕上がりでもある。ただ、リメイクとしての手の込み具合は間違いなく力作レベル。原作のストーリーを味わう体験を重視したゲームデザインもそのままであり、いい意味で任天堂らしさがない作品としての魅力は損なわれていない。
原作を知らない世代にはそんな”任天堂らしくない”体験の数々を提供し、知る世代には現代向けに作り直されたなりの恩恵を提供する仕上がり。任天堂もたまにはこういうゲームを作ることがあるという、懐の広さを思い知らされる作品であることは原作と変わりないので、興味があればお試しを。おススメです。
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