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≫ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者(前後編)


■発売元:任天堂 / ■開発元:トーセ / ■ジャンル:テキストアドベンチャー /
■CERO:A(全年齢対象) / ■定価:2,600円(税別)

◆公式サイト / ストアページリンク(ダウンロード版)
≫ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者(前後編)(Wii:バーチャルコンソール版紹介ページ)

◆リメイク版(Nintendo Switch)
≫『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』(NS)

©1988 Nintendo
▼Information
■プレイ人数:1人 / ■セーブデータ数:1つ /
■推定クリア時間:6~7時間
「海上(うなかみ)の崖」。
ここから滑り落ち、運よく途中の草むらに落ちて気を失っていた”あなた”は、天地(あまち)と名乗る男に助けられた。だが、”あなた”は自分の名前を含む、いっさいの記憶を失ってしまっていた。

手当てを受け、ふたたび崖に戻ってきた”あなた”は橘(たちばな)あゆみという少女に出会う。彼女によれば、”あなた”は私立探偵・空木俊介(うつぎ しゅんすけ)の助手として数年前から仕事をしていたという。

後に空木の事務所へと戻った”あなた”は自分の名前を思い出すと同時に、あゆみから「明神村(みょうじんむら) 綾城(あやしろ)」と書かれたメモがテーブルの上に置かれていたことを知る。

そこに何らかの手がかりがあると感じた”あなた”はひとり、明神村へと向かう。
▼Pros cons Pick up
--- Good Point ---
◆探偵の主人公になりきる体験、ストーリーの流れを味わうことに特化したゲームデザイン
◆基本、コマンドを総当たりすれば大体の行き詰まりは解消可能な控えめの難易度(推理するイベントもあるが、ゲームオーバーはないので、答えに行き着くまで何度でも繰り返せる設計)
◆横溝正史作品を思わせる雰囲気と二転三転する展開の数々でプレイヤーを引き付けるストーリー
◆終始、ストーリーを読み進めることに終始しない構成(特に終盤のイベントは呆気に取られるはず)
◆読み進めている過程でプレイヤーをドキッとさせてくる、不気味で印象深いジングル
◆メインに留まらず、脇からモブに至るまで印象に残りやすい個性付けが図られた登場人物たち
◆波形メモリ音源をフル活用した不協和音、現場の無機質感のある描写で恐怖心を煽る事件シーン
◆シリアス一辺倒とは限らない、一部に仕込まれたネタ要素(特に熊田医師絡みは笑えるものがいくつか)
◆背景・(登場人物の)立ち絵の多彩さと、どこか不気味な雰囲気をまとう色遣いが光るグラフィック
◆ストーリーや場面ごとの盛り立て役に留まらず、耳にも焼き付く印象的な楽曲が満載の音楽
◆大体10時間以内には決着する程よい物量に収まったボリューム(ストーリー的にも間延びがない)

--- Bad Point ---
◆既読メッセージの早送り、スキップ不可能な仕様(既読でも同じものが再生され、その分の時間が無駄になる)
◆一部、場面に不適切な話題が入り込むコマンド(選んでも大抵、時間の無駄になるだけと存在意義がない)
◆終盤直前に発生する”しらみ潰し”必至で、無駄な時間を要する現場調査イベント
◆メモなしでの攻略は非常に厳しい上、進展具合の分かりにくさがタマにキズな終盤のイベント
◆インパクトは絶大だが、相応にトラウマも呼び起こしやすい事件シーン
◆一部、重要なのに”ぽっと出”感が強すぎる登場人物の存在
◆エンディングにおける一部、描写不足の存在(締めは綺麗だが、ある人物が蚊帳の外のまま終わる)
▼Game Overview
「我、甦らん……」



◇ファミコンディスクシステム向けに独自制作されたテキストアドベンチャーゲーム。任天堂の同ジャンル作品としては『中山美穂のトキメキハイスクール』(以下、トキメキハイスクール)に続く3作目に当たる。開発はトーセ。主要スタッフは前述の『トキメキハイスクール』のほか、アクション&迷路ゲーム『メトロイド』に携わったメンバーで構成されている。
ストーリーは、何らかの事故で記憶を失った主人公で探偵助手の少年が、「明神村」で起きた財閥当主の不審な死の真相に迫っていくというもの。前述の概略で”あなた”と称している通り、主人公はプレイヤーの分身という設定でデフォルトネームは存在せず、各々自由に名前を決める形になっている。なお、分身とは言え、基本的にストーリー上では台詞付きで頻繁にしゃべる。パッケージジャケットにも描かれている通りだが、容姿も設定されていて、ゲーム中にも何度か映し出される場面がある。

◇本編は画面右側に表示されるコマンドを選択し、場所移動や情報収集、関係者への聞き込みを行いながら進めていく。いずれかの行動を取ると、次のイベントに繋がる「フラグ」が立てられ、ストーリーが進展していくというシステムになっている。ストーリー自体は1本道。特定の行動を取ることにより、以降のストーリーが変わるといった「分岐」の仕掛けはない。また、選択を誤ってしまうと主人公がやられてしまうといったゲームオーバーも存在しない。そのため、ストーリーが進展しない状態に陥っても、現在選択可能な範囲内で総当たりを試みれば必ず進めていけるように設計されている。

◇一部、ストーリー上のイベントで問いが提示され、その回答を入力する場面も用意されている。ただ、これも間違えることによるペナルティはない。気負わず様々な可能性を探っていけるようになっている。また、詳細は避けるが、ストーリー終盤にはゲームジャンルが一変する大きなイベントも設けられている。これも基本的に制限時間内にやらなければならないなどのルールはないので、じっくり取り組めば必ず攻略できるように設計されている。こうした特徴もあって、アドベンチャーゲームとしての難易度は非常に低い。途中、行き詰まりを起こすことはあれど、大きくやり直される心配はないので、軽い気持ちで取り組める設計になっている。また、ゲームデザイン面でもストーリー性の濃さが強調されている。
同じく任天堂から発売されたテキストアドベンチャーゲーム『ふぁみこんむかしばなし 新・鬼ヶ島』では、ストーリーと並行して謎解きに象徴されるゲームとしての手応えも強調されていたが、本作は部分的に強調するだけに留めていて、それ以上にストーリーをアピールするという手法を採っている。この辺りは開発チームの違いも起因していると推測される。(※『ふぁみこんむかしばなし 新・鬼ヶ島』は宮本茂氏を始め、『マリオ』や『ゼルダ』に携わったチームが開発している)

◇ストーリーは前編と後編の二部構成。基本的に前編はストーリーが未完で、ある程度進めると後編に繋がるイベントが発生して終了してしまう。続きをプレイするには別売の後編の購入が必須。なお、2004年にゲームボーイアドバンスで発売された『ファミコンミニ ディスクシステムセレクション』版、2008年以降にWii、3DS、Wii Uで配信されたバーチャルコンソール版は前編と後編を1つにまとめているため、1本購入すればストーリー全編が楽しめる作りになっている。

◇全体的にストーリーの作風は『八つ墓村』『犬神家の一族』といった横溝正史作品を彷彿とさせる。特に財閥の当主の不審死から始まって、その後に親戚を始めとする血縁者が登場するといった展開は非常にそれっぽい。そこに探偵助手の主人公はどのように関わっていくのか、そして節目で発生する凄惨な事件を引き起こしている犯人は誰なのかを推測していく過程が大きな見所になっている。また、任天堂のテキストアドベンチャーゲームとしてもストーリー重視なゲームデザインで、コマンド選択という仕組みを介して事件の全容を暴き出す体験と過程を楽しませることに特化した作品になっている。
▼Review ≪Latest Update :5/14/2023 | First Publication Date:5/14/2023≫
任天堂らしからぬストーリー重視の作風が異彩を放つ傑作。
表現の制約を巧みに活かした恐怖心を煽る演出と音響効果、二転三転するストーリーで魅せる。
『探偵倶楽部』というタイトルからは、現場や関係者から様々な情報を集め、それを元に真相を推理して犯人を見つけ出すとの内容が想像されやすい。大広間に関係者一同が集まって、その中央に主人公が立って推理の果てに犯人を指して事件解決、みたいな一幕や流れも同様に思い描くかもしれない。
ゆえに本作は頭をフル回転させる必要のある手ごわいアドベンチャーゲームなのだろう、とも。

実際は全く逆。推理が試される場面はごく一部にしかない上、難易度もそこまで高くない。それまでの展開を把握していれば、すんなり答えが出せる。仮に間違えてもそれでゲームオーバーになってしまうようなこともない。基本的にはコマンドの総当たりでどうにかなる難易度。題材とは裏腹に気軽に楽しめる作りになっている。
かと言って終始、行き詰まることもなくストーリーを進めていける訳ではない。時々、関係者の聞き込みや現場の調査で複雑な手順を踏むことが求められたり、前述の推理イベントでは答えを提示できなければ、そこから先には進めなくなっている。また、終盤のゲームジャンルが一変するイベントでは、メモが必要になる程度の謎解きが用意されている。ただ前述の通り、本作にはゲームオーバーがない。なので、じっくり取り組み続ければ、必ずいつかは突破口が切り開くように設計されている。手順を誤ることによるペナルティも皆無なため、総当たりも気負わずに実践できるようになっている。

こうした特徴から、本作はストーリー重視であることを強調したゲームデザインでまとめられている。具体的に言うなら、探偵という主人公の立場になり切り、その流れを味わうことを第一としたゲームデザインだろうか。
本作に先んじて発売された任天堂のコマンド選択型アドベンチャーゲームで、手ごわい謎解きにゲームオーバーなどのゲーム的な要素も揃っていた『ふぁみこんむかしばなし 新・鬼ヶ島』とは、一線を画す作品として完成されているのだ。

そのため、探偵になって推理する体験を求めると肩透かしかもしれない。逆にストーリー部分を楽しみたい、けれどプレイヤーとしても最低限関与できる体験も楽しみたい、との欲求のある人には打ってつけと言えるだろう。テレビドラマ、映画のような体験ができるゲームという欲求にも仕組み的に応えてくれる。そんな作りだけに、どちらかというと遊び重視な傾向のある任天堂のゲームとしては異例。まさしくこれぞ”任天堂らしからぬ”と言える、異色の作品に仕上げられている。

なりきる体験を尊重するなりにストーリー構成、演出周りにも力が入っている。特に素晴らしいのが後者の演出、具体的には音響周り。節々でプレイヤーの恐怖心を煽っては、現在置かれた状況に漂う空気を揺れ動かしてくる。基本、現場の調査、聞き込みにおいては、それぞれの場所や状況に際した楽曲が流れる。
だが、その過程で気がかりな情報が手に入ると、突然楽曲がストップ。ほんの僅かな間を挟んで不穏なジングルが鳴り響くのだ。たったそれだけなのだが、この鳴り響く直前にほんの僅かな間を挟むというのが結構ドキッさせるものになっており、場面全体の空気が一変したかのような錯覚を覚えるものに仕上げられている。
逆にストーリーの節目で事件が起きた時は、間を挟まず急に楽曲が切り替わる手法を採っている。これが情報を手に入れた時とは対照的な怖さを引き立てていて、プレイヤーの恐怖心と緊張感を煽ってくる。しかも、その場面向けの楽曲というのがやたらと怖い。波形メモリ音源をフル活用した、文字通りの不協和音になっている。そんな楽曲が事件の発生時に流れるのだから、嫌でも怖くなる。画面には事件の被害者もクローズアップされ、表示されるのだから尚更だ。被害者のグラフィック自体はドット絵による、ある程度ディフォルメされたものではあるのだが、逆に詳細に描かれていないなりにプレイヤー側が無意識に想像力を働かせ、脳内補完してしまう側面がある。それと共に件の楽曲である。どんな気持ちになるのかは想像にかたくないだろう。

まさに探偵として”なりきっている”体験を引き立てる演出として完成されているのだ。グラフィック周りに表現上の制約はありながらも、それを音響周りによって補完どころか、制約を感じさせないレベルの恐怖を確立させているのは単純に凄い。開発チームのセンスを感じさせると同時に、なりきる体験に音響効果は不可欠との真理を思い知らされる限りだ。
ディフォルメされているようで、よく見ると非常におぞましい事件現場のグラフィックも圧巻の仕上がり。特に後編のストーリーで起きる事件は、音響周りとの想像効果が存分に発揮されている。その光景にはきっと「見た目はディフォルメされているのに、どうしてこんなに怖いんだ……!?」と混乱してしまうはず。前代未聞の体験をお約束する。

これらの演出と共に紡がれるストーリーも見所満載で、完成度が高い。前述にて少しネタバレしてしまっているが、本編では節目ごとにいくつかの事件が起きる。この事件の発生タイミングがなかなかに絶妙で、プレイヤーの関心を引き付ける要素として活かされている。主人公の記憶にまつわる新事実、調査対象である財閥「綾城商事」の闇とその一族の素性など、その後の展開への興味を抱かせる要素も豊富に散りばめられているほか、終盤には思わぬ伏線回収もあったりして終始、プレイヤーを退屈させない。なぜ「綾城商事」当主は不審な死を遂げたのか、どうしてその調査をしていたはずの主人公は記憶を失うほどの事故に見舞われたのか。犯人は何が目的なのか。一連の真実が暴かれる終盤は、まさに怒涛の一言に尽きる展開が連続するので要チェックだ。一部、ショッキングな真実も含まれているため、人によっては思わず涙腺を刺激させられるかもしれない。

また、ストーリーは終始、シリアス一辺倒ではないのも大きな魅力。時折、奇妙なギャグやおふざけが挟まれることもあり、プレイヤーの笑いを誘ってくるのだ。特に登場人物のひとりで、主人公に協力する医師の熊田はこのストーリーにおける”癒し”と言っても過言ではない存在。きっとプレイしていくうちに愛着が湧いてしまうはずだ。

さらにストーリーには関係しないモブ、一部の場面だけに登場する関係者もやたらと個性が強いメンツが揃っていたりする。前者は後編のある事件後の現場に登場するおじさん、後者は崖で出会う「平吉」なるおじいさん、そしてストーリー上の重要人物の友人「大西克子(おおにし かつこ)」なる貴婦人が特に注目。ひとりはギャグ無関係なのだが、きっとプレイすればどうして含めたのかの理由が分かると思う。ある意味”仕方がない”側面もあるのだが……。
ただ、ストーリーにはいくつか気になる箇所も。これはゲーム側とも関連するが、しらみ潰しにも限度がある現場調査の場面が終盤に用意されている。ストーリー的にも後の展開に大きく影響する重要な場面なのだが、さすがにここに限ってはすぐに目的にものが発見できるよう、分かりやすいサインを示すなりして工夫して欲しかった。結局、本編の中でも屈指の無駄に時間を要する場面になってしまっているのが勿体ない。
時間を要すことに関しては、ボタンによる早送り、スキップが不可能な仕様も厳しい。特に既読済みのメッセージ、台詞が飛ばせないのは結構なストレスになる。しかも、二度目に聞くに当たって内容が省略されることもないので、終わるまで聞き続けなければならない。この辺りも既読済みなら省略、もしくは短縮するようは工夫は施して欲しかったところ。

こうした無駄な時間を発生させる、場面に相応しくないコマンド(話題)が表示される仕様も疑問。現在起きている事件、立ち会っている人物から情報を得たいのに、そことは無関係の人物や事柄の話題が出るというものだ。大抵、その手のコマンドを選んだとしても大した情報が得られることは滅多になく、存在自体が無駄になってしまっている。
ちゃんとそれ用の台詞やメッセージを用意している辺りは凝っているが、単純に不自然さが否めないので、状況に応じて削るみたいな措置は取っていただきたかった。探偵としてのなりきり感を際立たせる狙いがあるにせよ、「この状況でそんなことを考えるか?」みたいなプレイヤーとの認識のズレを生んでしまっている時点で試みとしては間違っているように思う。

他にストーリーでは終盤からエンディングにかけ、主人公と所縁のある人物の出番が無くなること、事件の真相に直結する重要人物の出番が少なすぎて、完全なぽっと出のキャラクターになってしまっているといった所も気になりやすい。前者に関しては、エンディングで何かしら補完があってもよかったように思うのだが、これに関しては明らかに容量の問題が絡んだと推測されるため、致し方なしだったのかもしれない。でも、欲を言うなら最後の場面に立ち会って欲しかったと思う。

それらの粗さを感じる難点もあり、特に無駄な時間を要する部分に関しては人によっては嫌悪感を抱くかもしれない。操作性、快適性周りの不備も後年のアドベンチャーゲーム、ノベルゲームに慣れた後だとストレスを感じやすい。その意味では時代の影響を受けやすい作りだが、それでも恐怖心を煽る演出にセンス溢れる音響周りの活用法、そして見所の多いストーリーと個性の強い登場人物には色褪せない魅力がある。ホラー系が苦手な人には薦めがたいところもあるのだが、そうでなければ要プレイも要プレイだと豪語できる本作。ストーリー重視のアドベンチャーゲーム、ノベルゲーム好きにもお薦めできる傑作だ。任天堂らしからぬストーリーを味わうゲームデザインの真骨頂がここにある。
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