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≫CROSS†CHANNEL 〜To All People〜(クロスチャンネル トゥ・オール・ピープル)
■発売元 サイバーフロント
■開発元 レジスタ
■ジャンル 学園青春アドベンチャー
■CERO D(17歳以上対象) ※過度のセクシャル、犯罪描写等あり
■定価 4800円(税別)
▼Information
■プレイ人数 1人
■セーブデータ数 メモリースティックの残り容量によって変化(使用容量:192KB以上)
■その他 メモリースティックDuo&メモリースティックPRO Duo対応
■総説明書ページ数 17ページ
■推定クリア時間 32〜40時間(エンディング目的)、70〜80時間(完全攻略目的)
群青学院の放送部に所属する主人公の黒須太一は、そこで仲間達との楽しい日々を送っていた。だが、共に過ごしていく中、仲間達との間に亀裂が生まれ、ある時を境にそれは決定的な破綻となり、放送部全体が断絶してしまう。その状況を改善すべく、太一は起死回生を賭けて合宿を提案するが、それも失敗に終わり、部員達の結束はバラバラ。今や、まともに部活に参加しているのはただ一人という有様になってしまった。

季節は既に夏休み。太一は閑散とした学校とそこに姿を見せる仲間達と交流しつつ、屋上で放送部の部長が大きな放送アンテナを組み立てている様子を眺めたりしていた。それは放送部としての部活であり、アンテナを完成させてラジオを放送する事が課題にもなっていた。

去年までは一同が結束していた夏。
今や、参加しているのは一名だけで、それを見る太一を仲間達は冷たく見つめる。

後に巻き起こる様々な対立と和解。
バラバラだった部員達の心は、少しずつ寄り添っていく。

そして夏休み最後の日、アンテナは完成するのだが……?
▼Points Check
--- Good Point ---
◆複数のヒロインが登場し、その交流が描かれるというこの手のテキストアドベンチャーには珍しい一本道構成(マルチエンディングシステムも採用されていない)
◆ゲームオーバーが存在せず、誤った選択肢を取り続ければ同じ展開が延々と繰り返される、世界観設定を活かした永久ループによるペナルティ
◆静かで穏やかな内容と見せかけて、実は人間の闇と狂気を主題に置いた衝撃のストーリー
◆セクハラ発言を繰り返す変態と見せかけて、実は登場人物の中でも屈指の闇を抱えた設定が凝らされた主人公の黒須太一(中盤からエンディングにかけてのイメージ一変は必見)
◆元気で能天気、無口、お嬢様、眼鏡っ娘、忍者と揃いも揃って強烈な個性を持ったヒロイン五人と脇を固める男性キャラクター達(いずれも主人公に負けない存在感を放っている)
◆プレイし終えた後、「本当にこれでよかったのか?」と良い意味で苛まれる事必至のエンディング
◆元が18歳以下禁止だったものを17歳以上対象へと引き下げたなりのシュール過ぎる対策演出
◆既読スキップにウィンドウ調整、細かな音量設定など、非常に充実したオプション周り
◆メインストーリー30時間以上、更にCG集めなどの寄り道もあるなど、充実したボリューム
◆夏の学校を舞台としたなりの鮮やかな色彩、丁寧な背景描写が光るグラフィック
◆ピアノ主体ならではの落ち着いた雰囲気と微かに狂気を含んだ作風が印象的な音楽
◆主人公の同級生役に山口勝平、山崎たくみ、更に回想で登場する男性キャラクターの役に堀川りょうと、意外性のある出演声優陣(特に堀川りょう氏演じるキャラクターは色んな意味で必見)

--- Bad Point ---
◆オリジナルの4:3サイズを無理矢理16:9へとトリミングしたかのように、上下部分が派手にぶった切られてしまっているワイド画面設定(この為、今作は4:3サイズでのプレイが推奨される)
◆衝撃性、見応え共に抜群ではあるが、相当な鬱要素を含む為、好みが分かれ易いストーリー
◆同じく個性的ではあるが、癖もそれなりに強い為、好みが分かれ易い登場キャラクター達
◆終盤にてメインヒロインとなる人物との会話劇とそのストーリーの冗長さ(それまでのヒロイン達とは比べ物にならないほど長いエピソードで、ダレ易い)
◆終盤の冗長な展開の所為で、間延びしている印象も否めない本編のボリューム
◆人によっては残念な気持ちにもなる(?)、レーティング対策演出の内容
▼Review ≪Last Update : 7/24/2016≫
映さなければセーフなのだ、映さなければ…。

けど、その表現は無理があり過ぎません?


2003年にPC用ソフトとして発売され、その重くも秀逸なストーリーと演出で高い評価を得た『CROSS†CHANNEL(クロスチャンネル)』のコンシューマ移植版。厳密には2004年にプレイステーション2向けに発売された『CROSS†CHANNEL 〜To all people〜(クロスチャンネル トゥ・オール・ピープル)』の携帯機向け移植版。開発はPSP版『Never7 -the end of infinity-』、『Ever17 -the out of infinity-』を手掛けたレジスタが担当。

人間の闇と狂気を描いた重いストーリーと秀逸な演出で魅せる、衝撃の怪作だ。

ゲーム内容はテキストアドベンチャーゲーム。主人公の黒須太一(くろす たいち)の視点から登場人物達との会話を繰り広げ、その要所要所で挟み込まれる『選択肢』を選びながら、ストーリーを追っていくというものである。
選択肢のシステムを採り入れているが、意外にも本編は一本道構成。当然ながら、エンディングもマルチエンディング方式ではなく、一つしかないという少々珍しい作りをしている。パッケージイラスト及び、公式サイトのイメージには複数のヒロインが登場しており、それぞれに用意されたストーリーが展開され、それにちなんだ結末を迎える内容と想像するかもしれないが、それらはメインストーリーを構成する要素の一つとしての扱い。更に言うなら、メインストーリーのエンディングを迎えるに当たっては、必然的にヒロイン達のエピソード全ての攻略が求められてくる。誰か一人を攻略したらそれで終わりではない。そういう構成になっているのだ。その為、この手の複数のヒロインが登場するテキストアドベンチャーゲームとしては、ちょっぴり異質。ある意味、昔ながらのテキストアドベンチャーとも言うべき作りになっている。
また、もう一つ珍しい特徴として、今作にはゲームオーバー(バッドエンド)が無い。誤った選択肢を選んだとしても、そのままゲーム終了へ一直線とはならず、選択肢を選ぶ前と同じストーリーが繰り広げられるというループに陥る仕組みになっている。少しストーリーのネタバレをするが、今作は何故か一週間単位でループが発生する謎の世界に太一を始めとする仲間達が潜り込んでしまい、そこからの脱出を目指していく事になる。その為にプレイヤーは太一の視点から、脱出の手がかりを探しつつ、仲間達の対立などの問題に立ち向かっていくのだが、この時に悪い選択肢を選んでしまうと、ストーリーは最悪の展開を迎える事になる。少し例に出すと、登場人物が残酷な死を迎えるとか、仲間同士で殺し合いになったりする…とかだ。どう考えても、バッドエンドも同然なのであるが、先の通りに今作の舞台となるのは一週間単位でループが発生する世界。その最悪の展開が起きて全てが終わった後、ループ現象が発生して一日目に戻り、最悪の展開に至る前の日々が繰り返される事になるのである。しかも、登場人物達の記憶と生存状況の全てがリセットされ、元通りになって…だ。こんな特異な世界が舞台である故、幾ら間違えた選択を取ろうが終局は迎えず、同じ事が何度も繰り返されていく。下手にやり過ぎれば、ゲシュタルト崩壊しかねない、驚くべき構造になっているのだ。こう言った特殊な環境下で、プレイヤーは選択肢を総当たりしながら、問題解決と脱出の糸口を探っていく事になる。何故、今作にマルチエンディング方式が採用されていないのか、その理由はこの設定によるもの。特異な環境下で繰り広げられる物語だからこその仕掛けが凝らされた作りになっているのである。なので、言うなれば、今作に登場するヒロイン達五人は、アクションゲームで言う所のステージに等しい存在。その一つ一つのステージを順不同で攻略していき、最終ステージを攻略できればエンディング。極端な例えだが、分かり易く言うなら、そういう内容なのだ。しかも、ゲームオーバーが無いので、手探りの連続。そして、少しでも判断を誤れば無限ループ行き。主人公の太一だけでなく、プレイヤーも舞台となる世界の異様さを一緒になって堪能できる作りとなっているのである。まさに特異な設定を活かしきったレベルデザインと言った趣だ。
なお、作中で攻略対象となるヒロインは五人で、いずれも元気で能天気な少女、無口、お嬢様、眼鏡娘、忍者(?)といずれも強烈な個性を持った面子ばかり。また、ヒロインとは別に同級生の男子が二人ほど登場するほか、学校とは別の所において太一に接してくる同い年ぐらいの男性も登場したりなど、男のキャラクターもそこそこ絡んでくる。この手のゲームだと、基本的に女性中心で、男性は居ても一人程度だったりするが、今作はそこのバランス取りが少し異なっており、独特の雰囲気を醸し出している。性格付けもクール、マイペースとヒロインほどではないにせよ、それなりに個性的。
また、主人公の黒須太一も強烈な個性付けが成されている。単刀直入に言うと『変態』。ヒロイン五人など、接してくる女性に対してセクハラ行為及び発言を繰り返すという、とんでもないキャラクターになっている。そのヤバさを体現するイベントも仕込まれており、一部に至っては一枚絵込みで「どばーん」と描かれる。はっきり言って、プレイヤーの誰もがドン引きすること必至、共感すら抱き難い主人公となっている。もっと言うならば、彼こそが今作の17歳以上対象というレーティングの要因となっている人物。他にも要因となる要素はあるのだが、全体の6〜7割はこの主人公が占めているのだ。パッケージジャケットなどの雰囲気から、どうしてこのビジュアルで17歳以上対象なのか、不思議に思うかもしれないが、遊べば嫌でも思い知らされるはずだ。そして、そんな主人公の視点から追っていくだけでも、今作のストーリーが如何に強烈なものになっているかは想像に難くないだろう。そもそも、今作のオリジナルは18歳以上のみ対象だったという事からも、その強烈さが分かるかもしれないが。ちなみにそのオリジナル版と比較すればお分かりの通り、今作は引き下げが実施されている。それにより、一部の一枚絵や演出はレーティングに応じた修正と自粛(?)が込められた修正が施されている。なので、その手の描写が苦手な方でも辛うじて耐えきれる(?)仕上がりだ。とは言え、結構際どい修正だったりするので、人によっては妄想力が働くかもしれないが、それはそれで本能のままに受け入れましょう。男ならそれでいいのです。
何だか微妙に変な話になってしまったが、そんな具合に全体的にはストーリー設定等の面において個性を出す事をコンセプトとしたとも言える内容となっている。選択肢にハズレが存在しないなど、ゲーム性を求めると肩透かしを食らうが、その分、ストーリーとキャラクターでインパクトを与える方向に特化。且つ、本編の構成も複数のヒロインが登場するゲームという第一印象から来る内容を良い意味で裏切ってくるものにするなど、意外性を前面に推し出した作品に仕上げられている。いわゆるノベルゲームと称されても何ら不思議ではない作り。登場人物のキャラクター付けも併せて、猛烈な刺激をプレイヤーに与えるアドベンチャーゲームとなっている。

そんな今作の魅力は、マルチエンディング方式と見せかけて、実は一本道という意外性のあるストーリーの構成だ。ループの設定自体は、この手のテキストアドベンチャーゲームではある種、王道とも言えるもので珍しさはそんなに無いが、その使い方が今作では面白く、独特のプレイ感を演出している。
特に誤った選択肢を選び続ける事で、同じ日常が延々と繰り返されていく事になる構造は、シンプルでありながらも、登場人物の生存状況から記憶までリセットされる設定も相まって妙な怖さがある。しかも、バッドエンドになって終わるのではなく、終わらずに続くというのも不気味。それぞれを攻略すれば、それにちなんだエンディングを迎えられるという、この手のアドベンチャーゲームの体裁を良い意味で裏切る作り方をしている。何かとアドベンチャーゲーム(ノベルゲーム)で複数のヒロインがパッケージに描かれた作品は、マルチエンディングがあると見られがちで、現にそういう実例はかなりあるが、その固定観念を利用するかのように作られた今作はある意味、珍しい例と言える。各キャラクターの交流を楽しむのではなく、ストーリー上の目的を達成する為、様々なイベントを攻略していくという点でも、その奇抜さが察せるだろう。
また、肝心のストーリーもなかなかに衝撃性に秀でた出来。単刀直入に言ってしまうと、心が押し潰されるほどに重い。キャラクターデザインこそ、この手のゲームのセオリーに則ったものではあるのだが、それからは全く想像が付かないほど中身は重く、プレイヤーの精神面を抉りに抉る内容になっているのだ。序盤こそ、主人公がセクハラ発言を繰り返すドタバタ劇が繰り広げたりなど、ギャグも交えた静かで穏やかな展開が描かれるので、全くその片鱗を見せない。だが、徐々に仲間同士で喧嘩になったり、そこから悪化して殺し合いになってしまうなど、少しずつその異常性が露わになっていく。そして、舞台となる世界の構造に太一が気付いて以降は、ストーリー全体の空気が一変。次第に主人公を含めた登場人物達のどす黒い内面が顕在化していくと同時に、一部の登場人物にまつわる衝撃の真相も明らかになるなど、エグい展開が繰り広げられていくようになるのだ。無論、その中には暴力的な展開も幾つかあり、そこでキャラクターが豹変したりなど、プレイヤーにトラウマモノの衝撃を与えてくる。そう言ったドきつい展開が繰り広げられていくにつれて、主人公は一つの事を成し遂げる為にある行動に出る事を決意し、終盤に至るまで、その奮闘が描かれていくのだが…これ以上先の事はストーリーの核心に触れてしまうので省略。実際に本編を見てくれとしか言い様がない、エグくて心を押し潰されるような展開が連続していくのだ。その凄さたるや、冗談抜きに精神的に疲れている時に遊べば、病んでしまう恐れすらあるほど。決して誇張で言っている訳では無い。本気でその恐れがあるぐらい、今作のストーリーというのは人間の闇というものを描いているのである。特に登場人物達の異常性には、度肝を抜かれるだろう。主人公を始め、誰一人とて正気な人間はこのゲームには居ない。あどけない少女、ドジッ娘等の如何にもなヒロインですらその対象。そんなバカな!?…と思うかもしれないが、実際にプレイすればそれが嘘でない事を思い知らされるはずだ。というか、知ったと同時に悪夢にうなされるハメになるかもしれない。
また、そんな数ある登場人物の中で、最も強烈なのは何と主人公の黒須太一だったりする。最初の印象は絵にかいた『変態』…なのだが、中盤以降になると、そのように言うのが後ろめたくなる真相が発覚する。同時に彼自身の過去も描かれるのだが、はっきり言って登場人物達の中では一番きつい。一連の言動に隠された真実を知った後、彼に対するイメージは180度一変する事になるだろう。そんな主人公が一体、この物語でどんな役割を演じるのか。そして、最終的にどんな顛末を迎えるのか。それに関しては本編で実際にお確かめ頂きたい。正直言って、こうするしかなかったのか…と、そのどうしようもなさにもどかしい思いに苛まれるかもしれない。他にも本編では幸せを願う事の愚かさをストレートに描いた展開も多数あり、ゴリゴリと精神面を抉られる。ただ、何一つ綺麗事で済まさず、面と向かい合って問題にぶつかっていく主人公を始めとする登場人物達の姿など、考えさせられる部分も多数。単に鬱要素の強いストーリーだけで終わってないなど、シナリオライターの手腕の高さというものも顕著に現れた、優れた内容でもあるのだ。
ただ、こういう内容であるが為、万人受けするものではないのは言うまでもなく。序盤はまだしも、中盤以降は本当に精神がズドンと落ち込む事必至の展開ばかりなので、そのような要素に耐性の無い方ならば滅入ってしまうほど、毒の強い内容になっている。終始明るく楽しく、時にちょっとしたトラブルも起こる理想的な学校生活が楽しめる…なんて期待を持って挑めば滅入るどころじゃない。最悪、もうこういうゲームには絶対手を伸ばさないと思うぐらいに深刻なトラウマを刻み込まれてしまうだろう。しかし、それでもストーリー自体の完成度の高さに揺るぎは無く、アドベンチャーゲームの第一印象を逆手に取った仕掛けと生々しい描写の数々が醸し出す個性は相当なものがある。ストーリー単体のボリュームが大きいのと、一部のキャラクターを徹底的に描く所為で冗長になってしまっているシーンなど、少し褒め難いところもあったりはするのだが、プレイすれば良くも悪くも記憶に深々と刻み込まれる作り。また、一本道構成だからこそのボリューム感と低めの難易度も心地良く、純粋にストーリーの集中できる設計になっているのも特筆するものがある。ループのネタ自体は他に扱った作品があるので新鮮味はないが、それらとは全く異なるアプローチを施した構成とストーリーはインパクト抜群。その作り込みと作品固有の個性を堪能するだけでも、相当なプレイ価値がある作品となっているのだ。

ストーリーの濃さのみならず、システム環境の完成度の高さも魅力の一つ。開発をPSP版の『Never7』と『Ever17』を手掛けたレジスタが担当しているというのもあって、既読スキップからウィンドウ調整まで、オプションで細かく設定できる設計で、プレイヤー好みの仕様でストレス無く遊べる。ただ、解像度に関する変更機能だけはイマイチ。PSPの液晶サイズに合わせたワイド(16:9)設定の切り替えができるようになっているのだが、これがオリジナル版の4:3の解像度をそのまま16:9の解像度に変換した後、サイズを併せる為にトリミングで上下部分をぶった切ったかのような、非常に見栄えの悪い仕上がりになってしまっているのだ。一応、テキストが表示されるウィンドウは最初からワイドサイズで作られているのもあって、何ら影響なしなのだが、メイン画面側は悲惨の極み。登場人物の頭などが豪快に切られてしまってるので、見るに耐えない有様になってしまっている。そして、画質自体もボケボケ。無理に拡大した画像をワイドにしたのがバレバレな出来になってしまっているのだ。幾ら何でも、これは手抜きと言わざるを得ない。恐らくは、ワイドサイズに描き直すとなると膨大な作業になる為、開発期間短縮の狙いでこのような措置を取ったのかもしれないが、それにしたってこれは無い。ワイドサイズにするなら、修正に手間を惜しんではダメだろう。まあ、実際はそうも言えない事情があったのだと思うが、結果的に完成度の優れたオプションに味噌を付けるものになってしまっているのが惜しまれる。この問題もあってか、今作をプレイするに当たってはオリジナル準拠のノーマルサイズ(4:3)で遊ぶ事を強く推奨したいところだ。繰り返すが、ワイド設定は本当に惨憺たる有様。見るなら興味本位で一度だけにしておいた方が良いと忠告を発しておきます。
ボリュームに関しても、メインストーリーだけでも30時間以上と膨大ではあるのだが、先も触れたキャラクターを徹底的に描く所為で冗長化してしまっているシーンがあり、その為に水増し感が出てしまっているのが惜しまれる。ただ、一枚絵集めなどのやり込み要素があったりなど、遊び応えはそれなり。水増しになってしまっているところはあれど、それだけ割いたなりに印象的になっているシーンもあるので、そこは必見である。
グラフィック全般も総じて良好だが、キャラクターデザインは少し好みが分かれる作風だ。とは言え、作画の乱れと言った粗削りな所はほとんど無し。一枚絵等のイベント絵も総じて質の高い仕上がりになっているので必見だ。音楽もピアノをメインとした落ち着いた静かな曲が大半を占めており、それが世界観と設定に見事にマッチしている。ただ、インパクト絶大なのはミステリアスな作風の曲だったりする。特にコーラス付きの楽曲『SIGNAL』はその象徴とも言わんばかりの仕上がりになっているので要チェックだ。人によってはトラウマになるかも…。

演出周りも全体的には静かな感じだが、先の太一の変態的な性格が露わにされる場面など、盛り上がり所もそれなりに抑えた作り。音楽と絡んで独自の雰囲気を作り出しているシーンも豊富で、これまた先に紹介した『SIGNAL』が流れる場面はその真骨頂。そのシーンが醸し出す狂気には、人によっては背筋に寒気が走るだろう。また、17歳以上対象故に暴力的なシーンも幾つか。思わず目を覆いたくなってしまう凄惨な描写は無いにせよ、結構、出血描写に関しては派手に描かれる感じなので、苦手な方は要注意だ。
その他、今作はボイスも凝っていて、何と三太の同級生で男子キャラクターの一人、島友貴は『名探偵コナン』の工藤新一役や『ONE PIECE』のウソップ役で知られる山口勝平が演じているという、意外過ぎるキャスティングが成されている。その他の男性キャラクターでも、主人公の回想で登場する新川豊に至っては何と『ドラゴンボールZ』のベジータ役で知られる堀川りょうという、これまた「え?」と声が出てしまうキャスティング。こういう作品に出る事自体が珍しい御二方が出演している、それだけでも今作が如何に強烈なインパクトを持った作品なのかが察せるだろう。特に堀川氏が演じるキャラクターは本当に珍しいものになっている(更に氏の演技も稀有なものになっている)ので、地味に要チェックだ。
ボリューム満点だが、やや冗長な場面が幾つかあるほか、キャラクター付けがあまりにも強烈なので人を選ぶ所もあったりと、総じて癖が強い作風なのは否めない。だが、意表を突いたストーリー構成と中盤からの怒涛の展開、衝撃的なエンディングと、プレイすれば確実に記憶に刻み込まれる要素が盛り沢山の内容になっている。よくある個性的なヒロイン達との交流を描いたアドベンチャーゲームかと思いきや、その実態は人間の闇と狂気を描いたとんでもなく黒くて重いストーリーが異彩を放つ今作。万人には手放しに薦められないが、少し変わった構成のアドベンチャーゲームを遊びたい方ならば是非ともチャレンジしてみて頂きたい怪作にして傑作だ。間違っても気軽に手を伸ばして良い類のゲームでは無い。冗談抜きにストーリーの重さは相当なものなので、挑むのなら精神的に余裕を持った上で行くようにしましょう。だが、遊べば間違いなく記憶に残る作品でもある。少し怖気づいてしまう所もあるかもしれないが、是非、機会があったら挑んでみて頂きたい。予想以上に救われない展開をお約束する。
なお、今作は後発でプレイステーション4版、プレイステーションVita版の『CROSS†CHANNEL 〜For all people 〜(クロスチャンネル フォー・オール・ピープル)』が発売されている。残念ながら、今作PSP版は発売元のサイバーフロント解散により、パッケージ版は稀少化しているほか、ダウンロード版も販売が終了してしまっているので、これから今作に手を出すという方は現行のPS4版、PSVita版を選ぶのをお薦めします。
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