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≫トリノホシ 〜Aerial Planet〜
■発売元 日本一ソフトウェア
■開発元 エヌケーシステム
■ジャンル SFスカイアドベンチャー
■CERO A(全年齢対象)
■定価 7140円(税込)
■公式サイト ≫こちら
▼Information
■プレイ人数 1人
■セーブデータ数 メモリーカードの残り容量によって変化(※1つ作成に240KB以上使用)
■その他 プレイステーション2専用メモリーカード対応、アナログコントローラ専用
■総説明書ページ数 17ページ
■推定クリア時間 28〜35時間(エンディング目的(※選んだルートによっては、10〜20時間))、80〜90時間(完全攻略目的)
人類が遂に相対性理論による光速の壁を迂回する方法を発見し、恒星間航行に乗り出した時代。遥か彼方の辺境、白鳥座α星デネブを近くに臨む水の惑星『コニウス・ブルー』の周回軌道にて、同惑星調査チームの小型宇宙船『ペリカン号』が微少天体との衝突事故に遭遇。惑星へと墜落してしまう。

ペリカン号には調査チームの一員であるラマンスキー博士のほか、博士の息子である少年ヒューゴーが同乗していた。墜落していく宇宙船から彼だけが救命ポッドでの脱出に辛くも成功。大洋に浮かぶ小さな島へと着地した。
だが、そこは惑星唯一の調査基地から数千キロも離れた場所…。更に着地の衝撃でポッドの通信機は破損。救難信号は出せず、捜索隊が出される見込みもなかった。

父親を失い、未開の惑星にたった一人取り残されたヒューゴー。
果たして彼は、遥か彼方にある基地まで辿り着き、故郷へ帰ることができるのか。
▼Points Check
--- Good Point ---
◆フライトシミュレーションと探索型アドベンチャーの要素を絡め合わせた、他に類を見ない独自のゲームシステム
◆広大なマップ、食料確保などのサバイバル要素が醸し出す、救いの無い圧倒的絶望感
◆風の抵抗を受け易い仕様、遅めの航空速度が如何にも本物っぽい、自機のグライダー
◆本物さながらの挙動が秀逸なグライダーの操作感(操作自体もワリとシンプル)
◆食糧確保に毒味、加工、更には体調管理と、陰湿なまでにプレイヤーを追い込む本格的なサバイバル要素
◆ひたすらに広く、孤独感を大いに煽る広大極まりないフィールドマップ
◆鳥の救出、難所の突破などバラエティー豊かなマップ上の『クエストイベント』
◆マップ上を飛び交う時に頼もしく、時に憎たらしい個性豊かな鳥達
◆ゆったりとしたゲーム展開に痛烈な一撃を与える恐怖のモンスター『竜』
◆バードウォッチング感覚で自由に名前を付けられるのが楽しい、鳥の図鑑モードのネーミングシステム
◆サバイバルな世界観にマッチした、あまりに硬派で絶望的な難易度
◆丁寧且つ、シナリオの展開と自然に絡ませたチュートリアル
◆充実し過ぎ、絶望だらけの総計ボリューム(エンディングを目指すだけでも30時間強)
◆鳥の全種類観察、食料コンプ、ルート制覇など盛り沢山のやり込み要素
◆反抗期の少年の成長を丁寧に描いた、完成度の高いシナリオ(世界設定も丁寧)
◆鳥の楽園という舞台設定にマッチした、静かで切ない音楽
◆状況に応じた曲の変化など、見た目は地味だが結構凝った作りの演出群

--- Bad Point ---
◆チュートリアルで基本操作は簡単に習得できるとは言え、感覚を掴むまではそこそこの時間が要されるグライダー操作
◆判定基準が曖昧で、決まった順序でやらないと絶対に発生しない仕様のクエスト
◆キャンプ地の発見判定の狭さ(もう少し広くしても…)
◆キャンプ地発見判定の狭さと気候条件の所為により、難易度的に突き抜けたものになってしまっている『Island #3』後半の竜イベント(※今作における屈指の挫折ポイント
◆短気な人にはストレスの溜まる、ゆったりとしたゲーム展開
◆フリーズバグの存在(特に鳥を沢山連れた状態でキャンプ地に着陸するとたまに起きる)
◆遅めのロード(特にセーブデータの読み込みが遅い)
◆初心者ならば挫折しかねない、硬派過ぎる難易度(理不尽な訳ではないが…)
◆慎重にやらないと詰みかねないのが過酷過ぎる食糧確保
◆世界観にミスマッチで存在意義不明の封入特典のCD(初音ミクとのコラボも謎…)
▼Review ≪Last Update : 5/23/2010≫
絶望した…。

何処も彼処も絶望だらけで絶望した…。


『魔界戦記ディスガイア』シリーズ等でお馴染みの日本一ソフトウェアが放つ、SFスカイアドベンチャーゲーム。開発はニンテンドーDSの『ジグソーワールド 大激闘!ジグバトルヒーローズ』などを手掛けたエヌケーシステム。

最後の最後まで絶望しかない、サバイバルな傑作だ。

ゲーム内容は、フライトシミュレーションに探索アドベンチャーの要素を加味した、その名もスカイアドベンチャー。グライダーで空を飛び、島を探索したり、イベント(クエスト)を攻略しながら、舞台となる惑星『コニウス・ブルー』の調査基地を目指していくというものだ。本編はステージクリア方式で進行。各ステージ(島)には『クエスト』と呼ばれるイベントが用意されており、これを全て攻略するとステージクリア。次のステージ(島)へと進む仕組みとなっている。但し、クエストは二種類あり、本編と絡んでくるのは『メインクエスト』と呼ばれる方。もう一つの『サブクエスト』はステージクリアに絡まない寄り道要素(やり込み要素)なので、『メインクエスト』の攻略に徹するのが基本となる。
また、クエストはメイン・サブ共にステージが始まった時点で全部が開放されている訳では無い。ステージの要所に配置されている『キャンプ地』と呼ばれる休憩ポイント、或いは特定の場所を到達・通過した際、随時開放されていく仕組みとなっている。いわゆる『フラグ』を立てながら進めていく感じ。与えられた課題をこなしていくのでなく、プレイヤー自身で課題を探す、如何にも探索アドベンチャーらしい仕様とされている。更に『未開の惑星が舞台』というストーリー設定、空を飛びながらゲームを進めるという基本システムを反映させてか、各ステージは何処もかなりの広さ。他ハードのゲームだが、NINTENDO64のスカイスポーツシミュレーション『パイロットウィングス64』の約3倍ほどのスケールとなっている。なので、迷ってしまうこともしばしば。そうサクサクと探索を進めていけぬ構成とされている。
加えて、グライダーを操作して島を探索するので、進みも極端に遅い。一時的に加速を付けられるが、飛行機などと比べたら雲泥の差。そして、グライダー自体は天気の影響も思いっきり受けるので、状況が悪かったりすると、先に進めなくなり、立ち往生を余儀なくされてしまう事も。フィールドが広い、クエストは探さねばならない、そして肝心のグライダーは遅い…。これだけでも今作が途方に無い苦労が必要とされる内容なのは、容易に想像が付くだろう。
しかも、それらばかりでない。グライダーを操縦する主人公、ヒューゴー(通称:ヒュー)の体調管理も各ステージ探索の肝。彼には体力のみならず『空腹度』の概念もあり、これが0%になると体力が緩やかに低下。食料で回復せねば、死に至ってしまう。そのヒューの体力をキープする為…食料の確保も求められてくるのである。そして、それもまたシビア。基本的に『キャンプ地』で探索のコマンドを選んで行うだけの簡単設計なのだが、探索する度に空腹度が減るので、食料が見つからないと逆に追い詰められる。また、仮に食料が見つかっても、それが毒を持ちの可能性も無きにしも非ず。迂闊に食べると、一瞬の内に死亡…なんて事も起こり得る。そして、仮にそこで沢山集めても、食料はナマモノなので腐る。故に保険の為に沢山持っていたら、全部腐って無いも同然になってたりと…ステージの探索のみならず、そんなヒューの体調管理の面でも、苦労は要されてくるのである。
その他、ステージには沢山の「鳥」が群れを成して飛んでおり、彼らを観察して鳴き声を収集し、次のステージへ進む為の『渡り鳥』を探す事も求められて来る。例によって、鳥の中には敵意丸出しな存在もいて、それがヒューに牙を向いてくることもある。そしてそんな彼らを仲間にする事も求められてきたりと、まさに死に物狂い。空を優雅に飛びながら、島を探索していく。パッケージのイラストからはそんな癒し系な雰囲気が醸し出されているが、それは完全なるフェイク。実際は絶望に次ぐ絶望。空を飛ぶのも命がけ、希望なんて何処にも無い…地獄のようなゲームに仕上げられている。癒し系というよりは、もはや絶望系。ゲームシステムの斬新さ以上に絶望感が勝る、とんでもないゲームなのである。

そんな地獄のような苦労の数々から醸し出される、圧倒的な絶望感が今作の売りだ。癖のあるグライダー操作、広大なマップ、ヒューの体調管理など、今作は隅から隅に至るまでプレイヤーを窮地に追い込ませる”絶望的な”ゲームデザインが徹底されている。何一つ、プレイヤーに希望という名の安心感を与えようとしない。
例えば体調管理の肝となる食料確保とか、仮に十分な量を確保できたとしても「時間が経つと食料が腐る」という劣化の概念がある為、「しばらくは大丈夫」な気持ちには一切なれず。それどころか、「食料が腐る前にステージをクリアせねば!」と、逆に焦る気持ちが刺激させられる。そしてその焦る気持ちは、広大なマップによって更に拍車がかかる。広いから進むのに時間がかかる…すなわち、食料が劣化していく事でもあるから、余計に「急がないと!」という心境になる。しかもマップ移動中は食料のみならず、主人公の体力も時間が経つ度に減少していくのだから尚更。それらの事に悩まされる為、無駄な行動を取ると食料が腐る、だけど行動しないと先に進まない…と言った葛藤も生じてくる。
極め付けは、マップ移動中に操縦するグライダーの遅さ。どうあがいても、飛行機並の速度は出せないので、遅さを受け入れた上での冷静な行動が必要とされてくる。更に先ほども話したが、グライダーは天気の影響をモロに受ける。なので、仮にキャンプで休憩し、強風などの荒れた天気になってたら、止むまでは行動できないので、その場で待機する選択を余儀なくされることも。勿論、待機した際には食料は減り、更に腐る上に場所移動できない所為から、新たな食料を確保する事も行えなくなる。結果として、只でさえ苦しい状況が余計苦しくなってしまう。
そんな具合に何一つ、本編においてプレイヤーを安心させてくれる展開が今作には無い。安心させようとも、他の要素で絶望を与えようとする。まさに極限サバイバル。希望なんてまやかしだ!…とも言っているかの如き鬼畜振りなのである。
そればかりでない。各ステージでプレイヤーに課せられるクエストも、絶望感満載だ。食料の一定数確保は勿論のこと、プレイヤーに攻撃を加えて進路を妨害する鳥達の対策、嵐の中から追い風を見つけ、それに乗って脱出を目指すなど、こちらの状況なんて一切無視のものが続々と課せられる。当然ながら、ある程度の余裕がなければ攻略は難しいので、どのクエストも難易度は高め。これまた絶望的な仕様だ。マップの仕掛けも、天候や攻撃的な鳥達などの様々な妨害要素が充実。ゲームを進めると、更にそこに「竜」なる巨大モンスターも登場し、それがプレイヤーの後ろにつき、しつこく攻撃を仕掛けてくる地獄のようなイベントまで用意されている。勿論、攻撃を喰らえば大ダメージ。しかも手数が多いので、回避行動を取っていかねば、確実に死亡するほどのシビアさ。もう、命がけである。
他にも、今作では途中でステージが分岐し、そこで取った選択によって後の展開が余計、絶望的な展開にもなるので、ルート選びにしても命がけ。本当、何処をとっても嘆きたくなるほど絶望感満載。余程、心が頑丈なプレイヤーでなければ、生き残る事すら容易で無い、シビアな作りとなっているのである。
今作がゲーム初心者に容易に薦められる類のゲームじゃないのは言うまでも無い。最後の最後まで絶望に次ぐ絶望という、凄まじいシビアさなので、軽い気持ちでプレイすれば心が折れるどころか、粉砕されかねないだろう。でも、この絶望感こそが今作最大の特色なのである。そもそも今作は悪戯に厳しい作りとしている訳ではない。全て「サバイバル」というテーマに則った上でのものなのだ。徹底した絶望感を出すのにしても、全ては極限状態を作り出す為。そして、そこで生き残ることの難しさを演出する為。サバイバルというテーマだからこそ、今作は絶望的なゲームとして作られているのだ。
確かにゲームとして、かなり厳しい内容なのは事実。だが、こうもシステムから個々の要素も含めて極限状態を作り、生き残る難しさを演出したのは大きな評価に値する所業と言っても過言ではない。どんなに人を選ぶ内容になってもサバイバルを作るんだと、こだわり尽くした今作のスタッフには、漢の本気とやらを痛感させられる次第だ。こうもクリエイターが表現したいものをきちんと表現したゲームも、近年では珍しい。そして、その各要素から伝わって来る絶望感には、もはやゲームを超越した、現実に近い恐怖すら覚える。
間違っても万人に薦めてはいけないゲームではある。しかし、万人受けの路線を殺してでも表現しようとしたこのこだわりは、単に難しいというだけの理由で非難するに値しないものだと言っても良い。それほどまでに、今作にはゲームとは思えぬ絶望感がある。近年では珍しい、ゲームという表現媒体ならではの凄味が満ち溢れているのだ。

操作性からゲームバランスも、今作独特の絶望感を演出する工夫が徹底されている。妙に癖があったり、先を読んだ行動が常に求められてくるなど、その感触と手強さは、もはや現実のサバイバルそのものである。
しかも、取っ付き難さを緩和する為にチュートリアルも作り込まれており、序盤にグライダーの操作から基本ルールまでみっちりと学習でき、すんなり絶望的なサバイバルへと入っていける。全体的にシビアなゲームだが、導入口からいきなり切り捨てはしないという辺りは、何処となくツンデレな優しさを感じさせられる。
また、純粋にゲームとしてのやり応えだが、ボリュームはかなりのもの。分岐要素があるので、非常にやり込み甲斐のある内容となっている。鳥の観察、食料のコンプリート、周回引き継ぎなどの要素も充実しており、1周目終わらせてもまだまだ遊び込めるその深さは、如何にも日本一ソフトウェアと言ったところだ。
グラフィック、音楽は平均的。どちらも派手過ぎず、地味過ぎずのレベルだ。
しかし、シナリオは突出した完成度で、絶望的なゲーム展開をより引き立てる魅力的なものに仕上げられている。内容的にはジュブナイル系の反抗期の少年の成長を描いた王道のものなのだが、SF絡みの設定、キャラクター描写が丁寧で、プレイヤーを引き込む魅力に秀でている。特に分岐の一つ、『Aルート』で繰り広げられるヒューとサポートAI『カール』との絆を描いた展開は見応え抜群。そして、惑星内で飛び交う鳥達が急激に進化していく背景には何があるのか、その辺の展開も魅力的だ。正直、このシナリオを味わうだけでも今作をプレイする価値があると言っても良いほど。小説にしても違和感が無いその中身の素晴らしさは冗談抜きに必見である。

とは言え、欠点もチラホラ。難易度が高いゲームでありながら、ロード時間が冗長でリトライ時のストレスが大きい、クエストのフラグ管理がやたらシビアで、決まった行動を取らないとフラグが立たないなど、そこがしっかりしていれば完璧だったのに…と言いたくなる。他にも、展開がゆったりなので短気な方には向かない、少し進行が冗長気味なども欠点だが、この辺はゲーム性を演出してもいるので評価が分かれる。
そんな具合に荒く作られてもいるが、完成度は及第点。特にクリエイターが本気で作りたいと思ったことが表現されたゲームデザインと個々の作り込み、感動的なシナリオは、今作でしか味わえぬ独自の味わいに秀でている。
もはやこれはゲームという枠を超越していると言っても良い、圧倒的な「絶望」に満ち溢れたこの『トリノホシ』。万人に薦められるゲームではないが、稀有な傑作だ。腕に自身のあるPS2本体を所持しているプレイヤーなら是非、チャレンジしてみて欲しい。ゲームの枠を超えたサバイバルで、絶望を感じてみよう。
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