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≫ブレス オブ ファイアV ドラゴンクォーター
■発売元 カプコン
■ジャンル ロールプレイング
■CERO C(15歳以上対象) ※暴力、出血、ホラー描写等あり
■定価 7140円(税込)<Best版:3150円(税込)>
■公式サイト ≫こちら ※音が鳴ります
▼Information
■プレイ人数 1人
■セーブデータ数 メモリーカード残り容量によって変化(※1つ作成に240KB以上使用)
中断データ1つ、他のメモリーカードへのコピー(移動)は不可
■その他 プレイステーション2専用メモリーカード対応、アナログコントローラ専用
■総説明書ページ数 24ページ
■推定クリア時間 25〜30時間(普通にエンディングを目指した場合)、10〜12時間(1周でエンディングを目指した場合)、65〜70時間(完全攻略目的)
遥か昔、世界に「大いなる災い」があった。
空は焦げ、瘴気は遍く地表に満ちた。
見上げるべき空を失った人々は、足の下に生きる術を見つけ出し、
第二の世界…大深度地下都市『シェルター』は作られた。
そして空すらないこの世界で、幾世代もの時が過ぎた…。

下層地区のレンジャー”リュウ”は、任務で訪れたバイオ公社(生物化学工場)で奇妙な体験をする。それは、失われたと思われた「空」を目指す戦いの始まりでもあった…。
▼Points Check
--- Good Point ---
◆目的地を目指す、シンプルなコンセプトを貫き通した一本道構成の簡素なマップ
◆フィールドマップの環境がダイレクトに反映される、戦略的且つ緊張感満点の戦闘システム『PETS(ペッツ…Positive Encounter and Tactics System)』
◆凡人が世界に抗う事の無謀さを露骨に描いた、硬派極まりないゲームバランス
◆シナリオの過酷な設定が露骨に反映された、歯応え満点・手強さ満点のボス戦
◆繰り返しプレイの苦痛を和らげる、追加イベントシステム『SOL(シナリオオーバーレイ)』
◆歩く度に命が縮まっていく、異質な恐怖感に秀でた『Dカウンター』
◆威力は抜群だが、使う度に命が消費されていく苦しさが新鮮な必殺技『Dダイブ』
◆シビアな世界観とシナリオにマッチした、クレジット制によるセーブシステム(データコピーによる反則技を封じる、データ別ID設定システムも実に衝撃的)
◆繰り返しプレイの内容にマッチした、控え目の総計ボリューム(※エンディングまで)
◆スキル集め、共同体運営など、遊び応え満点の充実した寄り道&やり込み要素
◆陰鬱な世界観ならではのどす黒い人間描写が光る、見応えの抜群のシナリオ
◆台詞表示、カメラワーク共に独特のセンスが発揮されたムービーデモ
◆それまでの苦労を洗い流してくれる、美し過ぎるエンディング
◆痒い所まで行き届いた配慮が光る、メニュー周りのインターフェースと操作性
◆デモスキップ、中断セーブ機能など、痒い所まで行き届いたサポート機能群
◆陰鬱な世界観にマッチした色使いと暗さが強調された、独特のグラフィック
◆ありとあらゆる場面を盛り上げる、荘厳なオーケストラ調の音楽

--- Bad Point ---
◆設定上仕方が無いとは言え、やはり初心者には酷過ぎる硬派なゲームバランス
◆自由行動を封じるという点で賛否が分かれる『Dカウンター』
◆レベル上げもできず、戦略的な行動が終始求められてくる為、プレイしていて精神的に疲れ易い戦闘システム
◆Dダイブ前提としたバランス調整が成された、後半の『統治者(メンバー)』との戦い
◆統治者(メンバー)戦で唐突に登場する新要素『アブソリュートディフェンス』(もう少し、事前説明があるべきだったかも)
◆説得力に欠ける調整が成されたリュウのスキル技(最初から使える通常攻撃が一番強いというのは…)
◆ほとんどが長期戦となるボス戦(特に中盤の連戦は無駄に時間がかかる)
◆世界観にマッチしてるとは言え、見え難さも際立つ暗めのグラフィック
◆事故対策とは言え、決定した際のレスポンスが滑らか過ぎて逆に不安になる、セーブ画面でのカーソルの操作感
◆生々しい出血・暴力描写(苦手な人は注意)
▼Review ≪Last Update : 5/16/2010≫
空を…見に行こう。

例えその先に死が待っていようとも…。


アクションゲームを専門とするカプコンの中で異色のタイトルにしてRPG、『ブレス オブ ファイア』シリーズの第五作目。世界観を過去シリーズから一新した、実質新作と言っても不思議でないタイトルである。

絶望だらけだが、最後には晴れやかな気持ちになれる秀作RPGだ。

ロールプレイングゲーム(RPG)を謳っているが、その内容はかなり特殊だ。主人公のリュウ(※名称変更可能)を操作し、様々なイベントや戦闘を乗り越えながら、本編の舞台となる『大深度地下都市シェルター』の最上階に当たる地上…空を目指していくというものである。 いわゆる一本道のRPGで、一般のRPGによくある広大な全体マップは存在せず(※街は存在する)。淡々と狭いフィールドを前へ前へと進んで行く内容となっている。故に自由度は低め。しかも、その自由度の低さに拍車をかける、数多くの独創的なシステム…という名の「縛り」が設けられている。
特にその象徴と言えるのが『Dカウンター』。今作でプレイヤーが操作する主人公のリュウには、Dカウンターと呼ばれる固有のパラメータがある。これは、本編のあるイベントの後から表示されるようになるもので、リュウ自身がドラゴンに精神や身体をどれだけ侵食されているかをパーセント表記で示す。この値が仮に100%に達してしまうと…リュウはドラゴンに完全に侵食され、強制的にゲームオーバーになってしまうのである。なら、Dカウンターを上げないよう行動すれば…と思っても無駄。このDカウンターは、フィールドを歩くだけで勝手に上昇していく。しかも、カウンター値を回復させる手段は無い。一度上がり始めたら、100%に到達するまで延々と上がり続けるのだ。なので、今作では迂闊にフィールドを歩き回ることが許されず。カウンター値を上昇し過ぎぬよう、慎重な行動を心掛けていかねばならないのである。
更にDカウンターの上昇は、フィールドを歩くだけでない。R2ボタンを押すと発動する高速移動『Dダッシュ』、敵との戦闘で、大半の敵を一撃で粉砕する攻撃『Dダイブ』を使った際においても、値は上昇。しかも、これらの技は普通に歩行する時以上にカウンター値が上昇するので、下手に使えば速攻でゲームオーバーとなりかねない。一見、救済処置だが、それすら罠。移動だけ注意すれば良いと思いきや、敵との戦闘でも慎重な行動が求められてくるのである。そんな具合に自由行動を断固禁ずる徹底振り。自由にフィールドを歩き回れるRPGとは一線を画す、窮屈さが醸し出されている。
また、セーブシステムも非常にシビア。『セーブトークン』なるアイテムを所持していなければ行えぬクレジット制なのに加え、特定の箇所でしか行えぬポイント方式となっている。更にDカウンターシステムの所為により、セーブ時にはその時点でのカウンター値も保存される。つまり95%とか、100に近い数値で中盤辺りでセーブしてしまえば、もうそれ以上先への進行は不可能。自動的に「詰み」となり、最初からのやり直しを強要されてしまう。迂闊なセーブすらも、今作では危険要素として扱われているのだ。挙句、Dカウンターとポイント方式である為にキャラクターの強化も自由に行えず。途中で敵に負けたりしたら、それまでの苦労は全て白紙にされる鬼っぷりだ。無事に進めたとしても、セーブトークンが尽きてると完全に無意味。徹底したシビアさを貫いている。
追い討ちをかけるかのように戦闘も高難易度。また『PETS(ペッツ…Positive Encounter and Tactics System)』なる独自システムにより、戦闘開始前の敵との接触状況とフィールドの状況(※今作ではシンボルエンカウントを起用)に応じて内容が変化。攻撃して接触すれば先制攻撃から、敵の体当たりを受けて接触すれば敵の先制攻撃からスタートと言った具合に有利になったり、不利になったりする。更に接触時に沢山の敵が周囲にいると、その全てが戦闘に参加し、場合によっては不利な展開を招くことも。普通のRPGの戦闘なら、体力管理に注意を配れば大抵、上手くやれるが、今作ではフィールドにいる敵の量や接触方法も考える必要があるので、甘い考えだと雑魚でも殺される可能性あり。展開にしても、AP(アクティブポイント)による行動制限の元で行われる故、安易なゴリ押しも通じぬバランスなので尚更だ。
フィールドを自由に動けず、セーブも自由に行えないどころか、タイミングによっては詰まりを起こしかねない危なさ。そして、それに拍車をかけるかのように戦闘バランスも厳しめと、全てにおいて作りが極悪。
基本、RPGは持久力さえあればクリアは容易なものだが…今作にはそんな公式が一切通用せず。持久力でなく…全てにおいて、プレイヤーのスキルそのものが試されてくる、独特の内容となっている。如何にも、硬派なゲームを得意とするカプコンらしいRPG…と言った感じである。甘さも温さも無い、まさにガチ勝負なRPGなのだ。
しかし下手に難しくし過ぎぬよう、気配りも充実している。進行不能に陥って最初からのやり直しになった際、消費アイテムは失うが装備している武器、覚えた必殺技(スキル)、予備の成長用経験値は残るし、ゲームオーバーになる事で新しいイベントデモがオープンされるという特典もある(このシステムの名をSOL(ソル)…シナリオオーバーレイという)。極端に言えば、今作はゲームオーバー前提のRPG。死ぬ事が肯定された、変わった内容なのである。

そして、今作最大の売りこそが、それらのシステムとバランス調整が醸し出す圧倒的な息苦しさ、そして絶望感だ。
はっきり言って、今作は最初から最後まで絶望の連続だ。Dカウンターの所為で、フィールドは自由に動き回れないからアイテム回収も慎重に行わざるを得ないし、敵は雑魚も強いから、気が抜けない。ましてや、『Dダッシュ』で素早く進めたり、『Dダイブ』の強力な攻撃で戦闘を進めたりすればカウンター値が急上昇するから、安易な力押しも不可能。そんなこちらの状況を考えず、敵は容赦なく攻撃を仕掛けてきたり、数十体もの大群と強制的に戦わざるを得ないイベントもあったりするなど、手を緩める事すらせず。冗談抜きに余程の経験と忍耐力を詰まねば、クリアは絶望的と言っても良い厳しさである。あらゆる面において、RPGの常識が通用しない。持久力さえあれば容易にクリアできるRPGに手馴れたプレイヤーなら、あまりの絶望の連続故、一回プレイすれば心が圧し折られてしまうだろう。
だが、今作が上手いのは、戦闘にしてもマップ探索にしても、極限までに不可能と可能の均衡を保った調整が図られていること。厳しい内容だが、ゲームオーバー時の装備品などの引継ぎ、SOLによるイベント開放など、やり直しを苦にさせない配慮が充実しているので、ゲームオーバー時のストレスは弱めに抑えられている。それのみならず、やり直しする事でカウンター値の上昇を抑えるプレイができるようになるなど、プレイヤー自身の成長を実感できる調整も図られているので、不思議とやる度に面白さも増していく。さながら、その感覚は同じカプコン製の『魔界村』や『ロックマン』などのアクションゲームそのもの。そんなやり直す度にプレイヤーの上達を感じ取れる、あのカプコンらしさが今作のバランスに潜在しているのである。なので、やり込めばやり込むほど、スキル上達とともに難易度は下がり、ゲームの奥深さも増す。スキルのみならず、今作ではキャラクターのステータス、装備品も重要視されてくるが、アクションでなく、RPGという全く別の畑で、そのお得意の調整芸が炸裂しているのには驚かされるばかりだ。
そして、RPGならではの「失うものの大きさ」を考慮し、引き継ぎやSOLと言ったシステムを導入したのも見事。やり直す度に面白さを増すあの感覚をRPGで表現する手法としては、申し分の無い代物と言って良いだろう。
またマップ探索、総計ボリュームにしてもやり直しを苦にさせない配慮が凝らされているのも秀逸。特にマップ探索は、「空を目指す」というストーリーコンセプトを考慮し、謎解きなどの手間のかかる要素を徹底排除。進むだけに特化し、戦闘に「空を目指す」目的を妨害させる為のウェイトをかけたのは、非常に美しいゲームデザインである。総計ボリュームも、マップサイズでは8〜10時間ほどで抑えられており、その少なさがやり直しを苦にさせぬ配慮として活きてるのも見事。これで、仮に40〜50時間もかかるボリュームだったら、もうクリアすら不可能なゲームとなっていただろう。
その他、硬派な難易度がストーリーにマッチしているのも秀逸。リュウと言う「ただの凡人」が少女ニーナの為、自分達よりも上位の人間達が支配する世界に抗う。そんな誰が見ても「死ぬも同然」としか言えない設定では、出て来る敵が強いのも当然。これが仮に強くない敵ばかりだったら、ストーリーの魅力も引き立ってなかったのは間違いない。そんな具合にストーリーの為に難易度を高く設定している辺りには、スタッフのセンスの高さを感じさせる次第である。
厳しい難易度だが、やり直しのストレスは感じさせないようにし、それを楽しくさせる為の配慮を図る徹底振り。そして、ストーリーがストーリーだけに「止むを得ない」という高難易度の理由付け。よく見てみると、全てがきちんとした理由の元で機能している、丁寧に作り込まれた内容となっているのである。斬新なシステムの数々も魅力的だが、それ以上に絶望感が光る。そんなのが際立つRPGも、今作ぐらいと言っても不思議ではないだろう。

遊び易さへの配慮は操作性にも光る。キーレスポンスはスムーズ、且つイベントのデモカット機能も搭載と、何度もやり直すゲームならではのその快適さへのこだわりは、さすがと言わざるを得ない。
何時でも止められる為の中断セーブなどのサポート機能が揃っている辺りも見事。そして、あえてゲームの絶望感を殺さぬよう、セーブデータのコピーを禁じさせる配慮が取られてるのにも圧倒される次第だ。
また寄り道要素も充実。『共同体』と呼ばれる地下世界を舞台にした探索要素、隠しダンジョンなど、その量の多さにはやり込み派も唸ること請け合いだ。
先ほど少し触れたストーリーも魅力的。世界観設定から台詞回しに至るまで非常に陰鬱で、他に類を見ないどす黒さが印象深い。登場人物も魅力的で、主人公を追いかける相棒ボッシュの狂気に満ちたキャラクター性は、プレイヤーに強烈な印象を残すこと必至だ。そして、その陰鬱な世界を巡り続けた末に到達するエンディングの強烈な美しさも印象的。正直、これを見る為だけでも今作をプレイする価値は十分にあると言っても良いほどだ。是非、プレイした暁には目指してみて欲しい。このゲームでしか味わえぬ、唯一無二の最高の感動をお約束する。

その他、グラフィック、音楽も素晴らしい出来。音楽は『タクティクスオウガ』などで知られる崎元仁氏が作曲を手掛けているだけに、その出来は折り紙つきだ。また、エンディングで流れる鬼束ちひろの『Castle・imitation』も必聴の価値アリである。その使い方の上手さには、思わず鳥肌が立ってしまうだろう。
システムの敷居は非常に高く、難易度も高いのでかなり遊び手を選ぶところはある作品である。しかし、遊ぶ度に深みの増していく熱中度の高さ、センス溢れるゲームデザインとストーリー、そして美し過ぎるエンディングなどと、全体の完成度は極めて高い。まさに、カプコンならではのその職人技には、一度は触れる意義があると言っても良いだろう。
独自のゲーム性とセンス溢れるゲームデザイン、そしてシナリオと見所盛り沢山のこの『ブレスオブファイアV ドラゴンクォーター』。万人にはオススメできないが、腕に自身のあるプレイヤーならば是非、プレイしてみて頂きたい異色のRPGにして傑作だ。苦しいけど、それに見合った感動が最後に待っている。
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