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≫ティアリングサーガシリーズ ベルウィックサーガ
■発売元 エンターブレイン
■開発元 ティルナノーグ
■ジャンル シミュレーションRPG
■CERO A(全年齢対象)
■定価 7140円(税込)<Best版:1800円(税込)>
▼Information
■プレイ人数 1人
■セーブデータ数 残り容量によって変化(※1つ作成につき約1775KB以上使用)
■その他 プレイステーション2専用メモリーカード対応
■総説明書ページ数 54ページ
■推定クリア時間 58〜70時間(エンディング目的)、150〜300時間(完全攻略目的)
ヴェリア王国を中心とした『ベルウィック同盟』は、迫り来るラーズ帝国の軍勢を前にして、劣勢に立たされていた。同盟の盟主たるヴェリアの前王モルディアス四世が、先の戦いで壮絶な死を遂げ、後退に次ぐ後退を余儀なくされた為である。

前線を支えていた同盟各国の大地は戦火で覆われたが、父の遺志を継いだウォルケンスは新たな王として、未だ健在な同盟諸国に対して「ラーズ帝国討つべし」の激を飛ばし、反攻の時を待ち望んでいた。

物語は、そんな同盟諸国の一つ『シノン』の公子リース率いる騎士団が、王の待つ城へと向かう途上から始まる。
▼Points Check
--- Good Point ---
◆常にアドリブの判断が求められる、緊張感満点の『同時ターン制』によるゲームシステム
◆防衛、敵殲滅、突入援助など、バラエティー豊かでやり応え満点のマップミッション
◆森から民家まで、何でもない存在までもが戦略に絡んでくる、練られたマップデザイン
◆任務と依頼の趣の異なるマップが交互に繰り返される、特殊なゲーム展開
◆リアルに雇用資金を支払う事で仲間になる仕組みが秀逸な傭兵システム
◆騎兵の馬を倒せるという、その仕組みからして衝撃的な『馬殺』
◆万能にならず、一点に秀でた存在に成長していく仕組みが見事な、個性的なユニット
◆緊張感の溢れるマップ攻略の一休みとして、絶妙にマッチした5ターンセーブ機能
◆どちらかが倒れるまで戦闘を続けるものなど、種類豊富で能力的にも丁寧に調整が成されたユニットの特殊能力『スキル』(特に『射撃待機』が面白い)
◆戦術シミュレーションとしての考える面白さを押し出した、硬派で絶妙なゲームバランス
◆住民の依頼解決、賞金首の討伐など、充実し過ぎ&やり応えあり過ぎのやり込み要素(メインルートも1周55時間以上と、ボリューム満点)
◆キーレスポンス、配置共に適切なレベルでまとめられた、快適な操作性
◆厳しい戦いを大いに盛り上げる、臨場感満点で重厚な音楽(名曲も盛り沢山)
◆戦争の時代を生き抜く少年の姿を描く、前作とは風変わりな内容で構成されたシナリオ

--- Bad Point ---
◆シミュレーションRPG初心者お断りの硬派なゲームバランス(未経験者は要注意!)
◆説得力皆無の命中率表示(90%なのに外れたりとメチャクチャ。)
◆何故か『袋』を使って管理する、酷く手間のかかる仕様の倉庫管理
◆完全ランダムな為、その瞬間が掴み難い武器故障
◆キャラの動作共にもっさりし過ぎな戦闘シーン
◆全てのユニットが順番に動く仕様の為、やや冗長なゲームテンポ(特に14章は、その仕組みがアダになったと言っても良いほど進行が遅くてしんどい)
◆駆け足気味で展開する後半のシナリオ
◆見難いステータス画面(背景色が暗い上、文字フォントが小さくてきつい)
◆好きな料理・嫌いな料理が当たるかは完全ランダムな、救済処置と言うには無理があり過ぎる料理強化システム(攻略本を見ないと、ほとんど分からない)
◆完全ランダム仕様な敵の捕縛(これは任意方式が良かった気がする)
◆発生条件が分かり難い、イベント方式のユニットクラスチェンジ
▼Review ≪Last Update : 3/15/2008≫
忘れ去られた進化、ここにあり。

しかしその進化は、極端に人を選ぶものだった。


ファイアーエムブレム(FE)シリーズ生みの親、加賀昭三氏の独立第一弾としてリリースされながらも、FEシリーズとの内容の酷似で、任天堂との裁判沙汰にまで発展してしまった『ティアリングサーガ』、4年ぶりの続編。

まさに新境地開拓!
一手一手を考える面白さを追求した、怪作シミュレーションRPGだ。

ゲーム内容は前作とは完全な別物。基本であるマップクリア方式(シナリオキャンペーン方式)で進行するシミュレーションRPGだけは共通しているが、システム周りは、前作の見る影すら無いものへと激変してしまっている。
まずその一つが、マップのマス目。前作はベースとなった『ファイアーエムブレム』シリーズと同じスクエア型(四角形型)のマス目だったが、今作では戦略シミュレーションでお馴染みのヘックス型(六角形型)に変更。上下左右の四方向でなく、斜め方向も含めての六方向から攻撃が可能となり、敵味方を含めて攻撃を受け易くなった。防御力の高いユニット一体を狭い通路の入口にセットして敵の侵攻を防ぐ、いわゆる「壁役」による防衛戦術も、攻撃方向が増えた影響で利便性が低下。前作で使えた戦術の大半は、今作では大半が通用しなくなってしまっている。
また、前作で使えた戦術を更に封じる手段として、今作では『同時ターン制』と呼ばれるシステムを起用。従来の「味方ユニットの番⇒敵ユニットの番」で展開する交互ターン制とは違う、「味方ユニット⇒敵ユニット⇒…全員行動終了で1ターン終了」という順番方式で展開するターン制となり、前作とは違ってその場の状況に応じた、(アドリブの)戦術が要求されるようになった。そのような仕組みになってしまった影響で、先の壁役による防衛は勿論のこと、交互ターン制の時に使えた戦術(地雷、おびき出しなど)もほとんど使えないものへと格下げ。行動の巡り方そのものが違うので、それらの戦術を行おうにしても、敵に先手を取られたり、またはその戦術を実行した自分がピンチに陥る事がほとんどだ。まさに『伝家の宝刀』が『諸刃の剣』になってしまったとはこの事。終始、その場の状況に応じた行動、先を見据えた戦術が要求されてくるので、生半可な考えでは一切、太刀打ちはできない調整が施されてしまっているのである。
また、上記二つ以外にも今作には様々な新要素が導入されている。
攻撃を受けたものは反撃不能となる一方的な戦闘、任務と依頼に分けられた章構成、買い物の施設やイベントなどが用意されたエントランスマップ『街』、馬に乗った騎兵ユニットに限定した『馬殺』の概念、技能値による命中率補正、傭兵雇用システムなどなど。その大半は、これまでのシミュレーションRPGでは見受けられなかったものばかりであり、プレイヤーに新鮮な面白さと手応えを提供してくれる。
特にその中でも『馬殺』、『傭兵雇用システム』の二つは衝撃的。前者は名前の通りだが、今作から騎兵ユニットの馬が「殺せる」。馬に体力の概念が設けられ、そのユニットがダメージを受けると馬もダメージを受けるようになったのだ。そして例によってこれが0になると馬が死亡。騎乗していたユニットは、強制的に馬から下ろされてしまうのである。再騎乗したいのならば、街で馬を購入する以外に無い。騎兵ユニットの馬と言ったら「絶対に死ぬ事は無い存在」として、シミュレーションRPGでは暗黙の了解とされてきた。それが今作で遂に「死ぬ存在」になってしまった。それだけでもこの要素が、如何に衝撃的なものなのかは言うまでも無いだろう。
そして後者、傭兵雇用システムもまた、馬と似た現実味の強さが面白い。例によって、今作でも傭兵を名乗るユニットは大勢出てくるのだが、彼らを仲間として使うのには条件がある。現実と同様、金で雇わねばならない。街の『ギルド』と呼ばれる施設でお金を払い、雇用しなければ仲間にはならないのだ(但し、初登場となる傭兵は、最初だけ仲間として使える)。更に彼らが雇用できるのは各1章だけ。次の章に移行してまた彼らを使いたければ、またギルドでお金を払って雇用しなければならない(しかもこの時、大抵値が上がってる)。まさに、これまでのシリーズで普通に出てきた傭兵のユニットが「本当の傭兵」になったと言ったところか。易々と使えない存在に成ってしまったのだ。
だがその分、彼らは「お助けキャラ」としての存在感が強められており、雇う事でゲームの難易度を下げられるメリットもある。つまり難易度調整の救済処置でもあり、雇った傭兵次第ではその後のゲーム展開が大きく変化。温くなったり、厳しくなったりと色々な展開の数々が楽しめるのだ。だけど、資金を考慮して雇っていかないととその後、苦渋を飲まされることもしばしば。難易度調整の裏側で、シミュレーション的な運営の厳しさみたいなものも演出しているのである。あえて便利なシステムにせず、上手い話には裏があるみたいなその調整は何ともニクいというべきか。シミュレーション好きなら「どうしたものか…」と良い唸りをしてしまうだろう。
他にも色々と魅力的な新要素はあるのだが割愛。この通り、FEっぽかった前作とは完全な別物。裁判の影響が露骨に現れたとでも言って良い、異色の内容となっている。だが、かなり面白い事をしている作品なのも事実。そして、これらの様々な新要素は、『トラキア776』の時のFEに通ずるチャレンジ精神に満ち溢れている。 そういう意味では今作、今の安定路線(キャラゲー路線)なFE以上にFEらしいとも言える。ちゃんとゲームをしているのである。

そんな今作の売りは何と言っても、ゲームシステムから何まで全てが新しいこと、それに尽きる。もう、FEの物真似などしてるところじゃないわ!…とでも言うべきか。シミュレーションRPGの新境地を開拓しようとしたこだわりの数々、そしてシミュレーションRPGとしての元来の面白さが、これでもかと言わんばかりに凝縮されているのである。
新境地を開拓のこだわりとしては、やはり同時ターン制によるゲーム展開。常に画面から目を離す事が許されないその仕組みは、従来の交互ターン制と比較して疲労度も半端でないが、その分、リアルタイムで思考する新しい「考える面白さ」、そして常に一定でない展開など、新しい魅力の数々が秘められたものにまとめられているのが実に素晴らしい。特に常に画面から目を離さず、敵の動きと先を見据えた上での行動が重要となる、その思考型パズルゲームと言ってもおかしくない考える面白さは、シミュレーションRPGとしては異端。全てのユニットを1ターンの一気に動かし、相手の動きをじっくり眺める交互ターン制には無い、極上の緊張感と中毒性をプレイヤーにもたらしてくれる。システム自体の新鮮味も相当なもので、遊んだものにかつて無い手応え・面白さを提供してくれる辺りも、新要素としては十分な及第点である。
そして、それを後押しする要素の数々。攻撃を受けた側が不利になる戦闘システム、傭兵による難易度の変化など、リアルタイムで考える面白さを損なわない配慮が万全に成され、一つも破綻が生じさせるものがないのにも驚かされる。まさに新境地開拓への執念とでも言うべきか。悪戯に新要素を入れ込んだのでなく、しっかり新しいものを演出する為に導入したその手腕は、近年のシミュレーションRPGを手掛けるクリエイターなら見習って欲しいと言いたくなるほどだ。
シミュレーションRPGとしての元来の面白さの面でもまた然り。単に新しい要素でコーディングしただけで終わらせず、マップデザインからユニットバランス等の総合的なゲームバランス調整が入念に行われているのも、素晴らしいの一言だ。
特にマップデザインは、とにかくマップ上の要素一つ一つが戦略上の重要なものとして機能しているのが凄い。民家や森など、一見、只の飾りみたいなものであっても、きちんとマップ攻略に絡んでくるよう、驚きの調整が成されているのだ。民家とか森は作品の世界観を表現する為の材料…、特に無駄に多いものほどそんな扱いにされてきたものなのだが、それすら今作では攻略上、必要になってくる!マータイさんもビックリなMOTTAINAI精神炸裂しまくりなのである。また、マップのパターンも使い回しが無く、何処のマップでも独自の戦略を練る面白さ、特徴を出しているのも素晴らしい。敵配置も練り込まれていて、適当なセットしたような手抜きが見受けられない辺りにも職人技を痛感させられる。
そして、これらのマップを攻略する際に扱うユニットのバランスも、一人一人が絶対に万能とならない、何処か一転に秀でた存在となる調整が図られているのがお見事。シミュレーションRPGとしての元来の調整が図られていて、育て上げる面白味がよく出ている。そんな個性が尊重される故、ユニット一人一人のキャラとして「大事にしたい」という愛着が湧き易いのも秀逸だ。各ユニットごとが所持する特殊能力こと『スキル』も、どちらかが倒れるまで戦闘が続く『死闘』、弓の命中率を高める『狙撃』、指定エリアに近づいた敵に先制攻撃を仕掛ける『射撃待機』など、バリエーション豊富。特に『射撃待機』はその効果共に面白いものに仕上がっていて、敵を罠に陥れるかのような、その爽快感は要チェックだ。
つくづく、全てにおいて練り込み過ぎにも程があると言ったところ。新しい面白さを提供するだけにせず、シミュレーションRPGとしても作り込む鬼気迫る姿勢には、遊んだプレイヤーの大半は誰もが圧倒されてしまうだろう。それほどまでに、今作の作り込みの深さは尋常で無い。新境地開拓・元来の面白さ貫徹、その二つが見事に成された、職人的な仕上がりとなっているのである。本当、半端じゃない…の一言。センス満点なのだ。

総合的なゲームバランスもかなり高め…、シミュレーション初心者なら確実にめげる難しさであるのだが、冷静に考えれば困難なマップも必ず突破できるなど、きちんと調整が成されているのが凄い。しかし、攻撃の命中率の数値がデタラメで説得力皆無(99%なのに連続して外れたりなど)、やり方次第では詰まりも生じ易い辺りは残念。特に前者の命中率は、もっと数値の説得力を高めて頂きたかったところだ。これでは疑心暗鬼にもなりかねない。
またチュートリアルも簡易型で不足気味、テンポも大勢の敵味方が入り混じるマップでは遅くなるなども調整不足。レベルアップの時の能力アップで、数値が上がるまでのスピードが遅い辺りも、どうにかして欲しかったところである。
対し操作性、グラフィック、音楽は申し分なし。中でも音楽の完成度は神がかっており、只でさえ厳しいゲーム展開を無駄に盛り上げてくれる。名曲も盛り沢山で、5章のマップで流れる曲は必聴の価値アリだ。
総計ボリュームもメインが60時間以上、やり込み要素として賞金首、素材集めなどと充実していてやり応えはバッチリ。ほぼ一生モノと言っても良いほど、遊び込める。
シナリオも地味ではあるのだが、一国の公子が戦争の時代を生き抜く…という風変わりなテイストで描かれる展開が新鮮。敵も含めてキャラも魅力的な面子が盛り沢山で、あるマップで登場するゴーゼワロス名乗る敵将との戦いは色んな意味で必見だ。また、仲間や傭兵達もサブイベントが豊富に用意されており、こちらも並行して必見である。

システムと難易度の癖が強いため、極端に人を選ぶのとインターフェース周り(特に管理画面周り)などがやや劣悪、武器の損傷が分かり難いなど独特の欠点も多く、敷居も総じて高めなのだがシミュレーションRPGとしては、色んな意味で最強(最凶)と言える存在ではある。
リアルタイムで考える面白さを追求した同時ターン性と練り込まれたシステム、バランスで送るチャレンジ精神満点のこの『ティアリングサーガシリーズ ベルウィックサーガ』。初心者には断じてお薦めしないが、シミュレーションRPG好きや腕に自信のある方ならばプレイする価値アリの革命的名作だ。新しい困難に挑み、勝利をモノにしてみましょう。
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