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≫WILD ARMS the 4th Detonator(ワイルドアームズ ザ・フォース・デトネイター)
■発売元 ソニー・コンピュータ・エンタテインメント
■開発元 メディア・ビジョン
■ジャンル ロールプレイング
■CERO A(全年齢対象)
■定価 7140円(税込)<Best版:1800円(税込)>
■公式サイト ≫こちら ※音が鳴ります
▼Information
■プレイ人数 1人
■セーブデータ数 メモリーカードの残り容量によって変化(※27KB以上の空き容量が必要)
■その他 プレイステーション2専用メモリーカード対応、アナログコントローラ(DUAL SHOCK2)及び互換コントローラ専用
■総説明書ページ数 43ページ
■推定クリア時間 26〜30時間(エンディング目的)、55〜70時間(完全攻略目的)
大戦により荒廃した異世界『ファルガイア』。
世界を二分する激しい戦争の終結から10年余り…。
この戦後世界の地の上で、物語は繰り広げられる。
▼Points Check
--- Good Point ---
◆アクションゲーム並のテンポの良さと勢いに富んだ、爽快なゲーム展開
◆無双RPGへの変貌とも言える、ラクウェル・アップルゲイトによる豪快なバランス崩壊
◆アスレチックにスニーキングエリアなど、アクションゲームかと錯覚させるような仕掛けが豊富に凝らされたフィールド&ダンジョンマップ
◆ジャンプやスライディングと本家顔負けの動かす面白さに優れた爽快なアクション
◆マップ探索時にとても便利な『エンカウントオフ』(但し、発動させるには条件あり)
◆シミュレーションRPGを髣髴とさせる戦略的要素が詰め込まれた『HEXバトルシステム』
◆見た目に反し、驚くほどスピーディなバトルテンポ(簡略化要素が効いてる)
◆キーレスポンスが良好で、触るだけでも楽しい感覚に富んだ抜群の操作性
◆チュートリアル、進行ルートのサイン表示など、豊富に凝らされたサポートシステム群
◆まるでアニメ絵のように描かれたモデリングが異彩を放つ、独特のグラフィック
◆荒野の世界観とSFっぽさが程好く融合した、良質の音楽
◆闘技場に2Dアクションゲーム、隠しボスなど無駄に充実したやり込み要素
◆特撮アニメに出てきそうな濃い性格付けが印象的な登場キャラクター達(主に敵側)

--- Bad Point ---
◆RPGとしては、ほとんど壊滅しているに等しいゲームバランス(一人のキャラクターによって完全崩壊してしまうとは、雑な調整も良い所)
◆同じく、統一性皆無なキャラクターバランス(特にユウリィの致命的な弱さは異常…)
◆ラクウェルの存在もあり、全く強さが誇示できていないボスキャラ達(一部、例外もいる)
◆バランスの悪さもあり、もはやラクウェルが暴れる場でしかない『HEXバトルシステム』
◆何をテーマとしているのかがサッパリ分からない、勢い任せの雑なストーリー
◆アクション要素濃い目で探索の手応えが皆無なフィールド&ダンジョンマップ
◆感情移入できない傲慢な言動が目立つ主人公ジュード(ベリエール戦が一番酷い)
◆何故か戦闘曲が『歌』のラスボス戦(テンションが下がる…)
▼Review ≪Last Update : 9/27/2008≫
「格好悪い大人だけどよ…」

いや、貴方こそ真の大人…もとい、漢だ。


RPGの王道を行くゲームシステム、良質なストーリーと音楽で好評を博し、ソニー三大RPGとしてその名を轟かせた『ワイルドアームズ』シリーズの第四作目。開発はこれまでのシリーズ同様にメディア・ビジョンエンタテインメントが担当。

これは不治の病を背負った少女が綴った、最期の旅の記録である。

不治の病を背負った少女、名はラクウェル・アップルゲイトと言う。背丈ほどある両手剣を武器に、一人荒野を渡る女性剣士であり、ファルガイアの中に僅かに残された美しい景観を求めて旅をしている。年齢は19歳。他者を寄せ付けない雰囲気を醸し出しているが、実際はかなり面倒見の良い性格。ゲーム中に訪れる港町にて、主人公のジュード達と出会い、それ以降は高い見識と卓越した剣さばきで一行を助けていくようになる。しかし、旅が進むにつれ、彼女の出自や、不治の病を背負っている事などが解明され、彼女自身が旅を続ける真の理由が明らかとなる…。それが先に話した『最期の旅の記録』。このゲームの全てである。
実際のゲーム内容の方は、オーソドックスなイベントクリア型ロールプレイングゲーム。それまでリリースされてきた、ワイルドアームズシリーズの伝統に乗っ取った内容となっている。ただ全体フィールドマップの廃止、各フィールドにおけるアクション要素の導入(ジャンプ、スライディングなどのプレイヤーアクションの追加)などの新たな試みが随所に凝らされており、ワイルドアームズの名を借りた別物としての雰囲気が漂う。
また、何と言っても今作最大の特徴は、RPGとしては前代未聞。主人公は主人公でないスタンスが取られていることにある。パッケージやストーリーを見ればお分かりの通り、今作の主人公はジュードと呼ばれる12歳の少年で、これがプレイヤーが操作する事になるキャラクター…となっているのだが実際の所、彼は作中では終始、ロクな活躍を見せない。それどころか、彼は主人公としてはあってはならない、とんでもなくむごい事を仕出かす。では、誰が一番作中で活躍するのか?それが、先に挙げたラクウェル。彼女こそがこのゲームの真の主役にして、その全てと言っても過言ではないのである。つまり、彼女がまだ仲間にならないゲーム序盤とは実質的には単なるおまけ。ゲームとしてもアクション要素を含んだロールプレイングという事で、バトルシステム(後述)こそ特徴的でありにせよ、他の作品と何ら変わりの無いものとなってしまっている。ゲームバランスもまた然り。だが、ラクウェルが仲間になって以降、今作はその真の正体をお披露目する。その真の正体とは『無双RPG』。彼女が仲間になった途端にだが、今作はゲームバランスが一瞬にして崩壊。迫り来る雑魚敵、ボスを始めとする強敵共に、彼女の攻撃だけで瞬殺できるようになってしまうのだ。それまでのオーソドックスなRPGとしての展開は一体どこへやら!?しかも、彼女は戦闘中、無限に自分のターンを作り出せる強力な技(注:特定のポイントを消費する為、量によってはあまり動けない)まで所持しており、迫り来る雑魚敵、ボス達を一切の手を出さぬうちに仕留めるなんて事ができてしまう。ゲームの中盤が過ぎる頃になれば、ボスを1ターンで倒せるのもほぼ常識のような事に!一体、ジュードを始めとする仲間達は何の為にいるのか!?そして序盤から何の為に頑張って敵と奮闘してきたのか!?そんな疑問が雪崩の如く炸裂するほど、彼女が仲間になって以降は本編が爆変。一人のキャラクターがゲーム全体を掌握してしまう、前代未聞の調整が行われたRPGに今作は仕上げられてしまっているのだ。
まさにこれぞ、ラクウェルの為のゲームバランス。またの名を無双バランス。RPGとしては珍しい、敵を続々と薙ぎ倒していく爽快感を打ち出した、大変珍しい様となっている。

更にラクウェルは、バトルシステムの存在感までをも覆してしまう。今作では『HEXバトル』と呼ばれる、六角形のマス目で構成されたフィールドを移動しながら、敵への攻撃を仕掛けていくという大変特徴的なものを起用している。ゲームに慣れた方に対して例えるならば、戦略シミュレーションゲームのマップ構成でお馴染みのものと言えばピンとくるだろうと思う。
しかし、戦略シミュレーション風味のバトルと聞き、逆にテンポが悪いのではと危惧する方もいるだろう。その辺はご心配なく。キャラの移動スピードは早いし、魔法のエフェクトも冗長ではない。何よりも、マス目には最大4人までのキャラが待機でき、そのマス目に対して攻撃を行うと、そこに待機するキャラ全員がダメージを受けると言った要素が、バトルの展開をよりスピーディなものとしてくれる。それに、戦略シミュレーション風味だとは言え、戦略的な要素はあくまでもおまけ程度。基本的には敵を倒す事にだけ注力していけばいい、大らかな調整となっているので、慣れてない方も大丈夫。見た目に反して、システムそのもののは大変敷居の低め。取っ付き易いものに仕上げられている。しかし、あくまでもこのシステムが際立つのはラクウェルが仲間になるまで。仲間になって以降は、もはや飾りに過ぎなくなる。何故ならば、先ほども話したように彼女は強い。雑魚どころか、ボスまで瞬殺するほどに強い。そんなキャラが暴れるようになったら、このシステムはどうなってしまうか。
ずばり、崩壊。
もはや「彼女が暴れる為の遊び場」であるかのように化けてしまうのだ。マス目に移動するのも、敵を誘い込んだりするのも、もはや面倒な作業へとシフトチェンジ。何の為のHEXバトル、何の為の戦略…何の為の雑魚敵、何の為のボス。それらの要素が途端に存在意義を無くしてしまう。精々するほどに荒らされてしまうのである。こんなにも彼女が強く、システムを壊すほどの存在として成立してしまっているのも、全ては『最期の旅の記録』を華々しく飾る為の意図によるものと言ってもおかしくないだろう。不治の病により、未来を生きる事が許されなくなった彼女。そして、生きている内に旅の目的を成し遂げたい強い思い。それを急いで実現させてあげたい、そう言ったスタッフ側の支援により、今作のゲームバランスとシステムは、あえてこのような形となったに違いない。事実、その支援は見事に成功している。ボスを軽々と倒せる強さ故、作中では主人公のジュード以上の存在感を見せているし、死に至る前に足掻き続けたいというスピーディなゲーム展開は今作が彼女が真の主人公なのだというテーマ性を明確に打ち出している。他のキャラや立ちはばかる敵は、単なる引き立て役に過ぎず。華々しいものへと確立させようとする思いは、美しいまでに伝染しきっている。
仮にもRPGというゲームで、バランス&システム崩壊や他の仲間の存在意義放棄だなんてとんでもない。そう思うのも確か。彼女を目立たせる為にゲーム性はほぼ放棄されてしまっており、遊びとして成立し切っていないのは事実だ。しかし、それを殺してまで今作は「一人の少女が暴れまくる」という見るだけでも、触るだけでも面白いシチュエーションを突き通した。それも全ては、『最期の旅の記録』という隠れたコンセプトがあったからこそ。他の仲間が必要ないとか、RPGとしてのゲーム性放棄だ!…と言っても間違いは無い。だが、このジャンルだからこそできる表現方法はゲームだけか?…と考えてみると、あながち今作が取ったスタンスは正しいものだったと言える。つまり、RPGをゲームではなく、真っ当な叙事詩として確立させたという意味において。ゲームとしてのRPGではなくて、違うRPGを目指した、そういう意味では今作は、まさにデトネイター…起爆剤の名に相応しい作品だと言えるのである。
形はメチャクチャであれど、RPGの新たな一石を今作は投じたのだ。こんな真似を出来たのも、流石はストーリー主導のRPGを作ってきたメディアビジョンならではである。

しかし叙事詩としてのスタンスを貫いたとは言え、そのストーリーには多少難があり。何をテーマとしているのかがサッパリ伝わってこない内容で、使い捨てのキャラが多かったり(要は人が死にまくる…)、台詞に描写不足が多かったりと(中盤のベリエールと呼ばれるキャラとの戦いはその影響がモロに出ている)、どうにも急ぎ足で作ったかのような所が丸出しとなっているのが痛い。所々、日本語としての使い方を間違った台詞回し(落涙など)があるのも、ライターの自己顕示みたいな所があって気持ち悪い。折角、キャラクターや世界観の設定周りはしっかりしているだけに、もう少し気を使った制作を心掛けて頂きたかったものだ。素材としては面白いのに、この有様は…無い。
反面、操作性は申し分なし。アクション要素があるとは言え、複雑な操作は無く、またボタンの反応も非常に良好なので、これと言ってストレスを感じる事は無い。アクションを駆使して突破していくダンジョンやフィールドも仕掛けの量などが適切で、テンポ良く進めて行ける作りで統一されているのにも好感が持てる。
グラフィックと音楽も良好。特にグラフィックはアニメキャラのような3Dモデルが大変印象的。トゥーンシェーディングのようで実は違うそのアンバランスさは、シリーズファンのみならずチェックしてみる価値がある。

また、本編とは別のやり込み要素も充実。隠しボス、2Dアクション風味のミニゲーム、闘技場と言ったものが沢山用意されているので、遊び応え抜群だ。他にも前作に当たる『WILD ARMS ALTER CODE : F』とのリンク要素、台詞回しは臭いけどゲームを盛り上げる演技を魅せてくれる各キャラの声優陣(特に敵として登場する、若本規夫氏の熱さはかなりのもの)など、魅力は尽きない。とは言え今作にRPGを期待するのは正直言って、間違いだ。今作は何度も繰り返した通り、『ラクウェルのラクウェルの為のラクウェルによるRPG』。一人の女性の生き様を追うのがメインの叙事詩である。
故に、真っ当なRPGを遊びたいというユーザー、シリーズを連続して遊んできたユーザーにはあまりお薦めし難い一本。逆に、未経験者はRPGの新たな形を見てみたいという好奇心のあるユーザーには自信を持ってお薦めできる、特殊な名作だ。デトネイターの名の下で行われた、恐るべき改革。その有様をとくと目に焼き付けるべし。
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