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≫ティアリングサーガ ユトナ英雄戦記
■発売元 エンターブレイン
■開発元 ティルナノーグ
■ジャンル シミュレーションRPG
■CERO(推定) A(全年齢対象)
■定価 7140円(税込)
▼Information
■プレイ人数 1〜2人
■セーブデータ数 残りブロック数により変動(※プレイステーション専用メモリーカード対応:1ファイル作成につき3ブロック使用)
■その他 DUAL SHOCK(※振動機能)対応
■総説明書ページ数 64ページ
■推定クリア時間 40時間〜50時間(エンディング目的)、100時間以上(完全攻略目的)
大陸リーベリア…。
この地を長きに渡って治めていた四王国、サリア・レダ・カナン・リーヴェは邪神ガーゼルを崇拝するゾーア帝国に滅ぼされ、暗黒時代に突入しようとしていた。
リーヴェ王国を構成していた4公国の一つ、ラゼリア公国大公グラムドの息子・リュナン公子は、帝国軍の猛攻で国を負われ、父の盟友であるヴァルス提督が支配する港町グラナダに逃れる。そこで、提督と彼の息子で親友のホームズと共に帝国軍相手にリュナンは抗戦し、この攻防によって彼は『グラナダの英雄』と呼ばれるようになる。

だがその一年後、帝国軍によってグラナダは陥落。ホームズと共に僅かな手勢を引き連れ、リュナンは大陸の南に位置するウエルト王国へと逃れる。

そしてリュナンはかの王国の助力を得て、再び帝国へと立ち向かおうとする…。
▼Points Check
--- Good Point ---
◆二つの異なる軍隊を個別に進行させていく、極端な差別化が図られた本編の構成
◆マップの攻略に集中する、ストレート且つシビアな内容が光るリュナン編
◆思う存分ユニット育成が楽しめる、自由度の高さと難易度の低さが魅力のホームズ編
◆ホームズ編にて思う存分に出来る故、中毒性も半端無いユニット育成
◆全60以上と無駄に多く、そして個々の性能もきちんと差別化が図られたキャラクター達
◆凶悪なボスが暴れ回ったり、登場する敵ユニットが全て不意打ちを狙う面々など、それぞれの個性が露骨なまでに表現されたマップデザイン
◆ホームズ編の育成次第で高くも低くもなる、自由度の高さが光るゲームバランス
◆マップ総数40以上、他に武器の熟練度コンプを始めとするやり込み要素も完備と、充実し過ぎな総計ボリューム
◆最強キャラを封印する機能など、破綻した戦いに陥らない作りが秀逸な対戦モード
◆ターン途中のセーブ可能、ボタンリトライなど地味ながら充実したサポート機能群
◆王道ファンタジーながらドロドロの人間描写が光る、練られたシナリオ
◆やたらと個性の強い悪役キャラクター達(特にエルンスト)

--- Bad Point ---
◆ファイアーエムブレムからの拝借箇所の多さ(武器の名称、システムなど…多過ぎ)
◆ゲームシステム自体の独創性のなさ(二つの差別化を除けばFE外伝そのものである)
◆アニメーションがしょぼ過ぎて迫力に欠ける戦闘シーン(加えてテンポも悪い)
◆マップ内に出せる最大人数が分かり難いユニットの出撃編成画面(何故か、最大人数の仕切りが数字ではなく、境界線表示。地味に分かり難い)
◆古い時代のゲームを思わせる、感触の鈍い操作感(特にマップカーソル)
◆スーパーファミコン時代のゲームを髣髴させる、古臭いグラフィック(キャラクターの顔グラフィックとかもイマイチ…)
◆主張の弱い音楽(エンディング曲等、そこそこ良い曲もあるのだが…)
◆練られているが、登場人物と固有名詞が多過ぎて複雑過ぎる感も否めないシナリオ
◆一部、発生条件が分かり難い特定イベントの存在(レティーナイベントなど)
▼Review ≪Last Update : 12/27/2009≫
ここから全てが狂い出した。

何故、こんな事になったのか…。


ファイアーエムブレムシリーズ生みの親、加賀昭三氏が起業した『ティルナノーグ』が開発、エンターブレインが販売を担当した新作シミュレーションRPG。ファイアーエムブレムとの世界観の関連性、ゲーム性の酷似が任天堂に問題視され、発売から約2ヶ月後に裁判沙汰を招くことになった、いわく付きのタイトルでもある。

訴訟問題に発展したのも納得のソックリっぷり。
だが、それで終わらせるのも勿体無い工夫も光る、悩ましき問題作だ。

ゲーム内容は、シナリオキャンペーン方式(マップクリア方式)で展開する、ターン制のシミュレーションRPG。個性豊かなユニット(駒)をカーソルで動かし、マップ上を徘徊する敵ユニットを撃破、勝利条件を達成していくというものである。
マップのマス目はスクエア(四角形)方式を起用。また、ユニットが扱う武器は剣、槍、斧、弓、魔法などが中心。ユニットも剣士などの歩兵のほか、馬にまたがる騎兵など様々で、騎兵に関しては敵への攻撃を行った後、残った移動範囲を使っての再行動ができる。その他、ユニットは『スキル』なる特殊能力を所持。連続攻撃を仕掛けたり、受けたダメージ量に伴って回避能力を上げたりなど、効果は様々で各ユニットごとの個性を色濃く表現している。戦闘にも奥行きを与えており、その能力を持つものに応じて振り分けるなど、独自の戦略の妙を演出しているのも印象的だ。そんな感じに、簡単に今作を構築するシステムを語った訳だが…単刀直入に言ってしまう。何処も彼処も、任天堂のファイアーエムブレム(FE)のものばかり。というか、それ以前にそのまんまである。
スクエア方式のマップ、剣を始めとする武器、再行動の概念、特殊能力『スキル』と、大半の要素はFEからの逆輸入なのである。ユニットのキャラクター、武器の名称、スキルの名称などは違っていたとしても、元に変わりは無い。基本的に違ってるだけで、一緒と言っても良い。それ以外に戦闘システムも、見た目がFEと一緒。加えて、素早さの数値次第で追加攻撃が可能だったりと、流れまで一緒だったりする。挙句の果てには、命中率と必殺率を補正する『支援効果』まである始末。さすがに武器の相性によって命中率が変化する『三すくみ』は無いが、それも見方を変えれば『紋章の謎』以前のシリーズへの原点回帰である。
とにかく、キャラクターとかその辺の見た目は違っていても、中身は完全にFEの二番煎じか、パクリと称されても擁護のしようがない有様。開発者が「FEの続編」だと宣言するのにも納得というか、非常識さが際立つ内容となっているのである。そんな有様ゆえ、FE経験者ならデジャヴ炸裂となるのはもはや言うまでも無い。キャラクターや名称が違ってたとしても、その全てがFEのそれと一緒なので、新鮮な味わいすら感じられないだろう。未経験者なら感じ方は別ではあるけど。
それでも正直、これなら訴訟問題に発展するのも納得の作りである。違いを出す為の処置が名称の変更という名の模様替えに過ぎないなど、浅はかさが際立つのも見苦しい限り。せめてマップをヘックス(六角形)に変えるとか、戦闘システムに違いを出すとか、それぐらいの工夫はできなかったのかと、突っ込みたくなるほどだ。同じクリエイターだからカラーが出てしまうのも分かるが、さすがにこの節操の無さはやり過ぎだ。もっと抑えられなかったのかと、言いたくなる。(※念の為、訴訟の件で最も問題となったのは、加賀氏自らがFEの続編であるとほのめかす供述をし過ぎたことであるが。)
だが、何も全てがFEそのもの(模様替え)という訳では無い。
それだけは声を大にして言っておく。
確かに、大半の要素は模様替え同然だ。
しかし、ゲーム性の面では新たな試みが凝らされている。
特に注目なのが二つの軍隊を介しながら進行する、本編の構成。このシステム自体も、ファイアーエムブレム外伝のそれなのだが、アプローチが大変ユニーク。メインとなるリュナン隊は一本道のシナリオキャンペーン、もう一人の主人公ホームズの軍隊はフリーマップ込みの自由度の高いキャンペーンと、軍隊ごとに異なる味付けが成されている。制約の多いプレイと自由度の高いプレイ、軍隊ことに全く異なる遊びが楽しめる作りとなっているのである。

そして、そのシステムこそが今作最大の売り。何が面白いのかというと、ホームズ隊の構成。これがプレイヤー側で難易度を調整するパートという、他に類を見ない存在感を醸し出している。
より具体的に解説するとリュナン隊、ホームズ隊はリュナンとホームズ、そして一部のユニットを除き、互いのユニットを隊に行き来させる事ができる。つまり、強いユニットを一本道で自由度の低いリュナン隊に派遣させ、弱いユニットは育てる為に自由度の高いホームズ隊に派遣させる、そんな具合に分け方次第で、互いの進行に大きな変化が生じる調整が図られているのである。強いユニットをリュナンの方に派遣させれば、難関の突破が容易になる反面、弱いユニットを大量に派遣すると地獄を味わうなどと。そんな分け方による、奥深い戦略の妙、多彩なゲームプレイを楽しめるのである。なので、今作のユニット育成の面白さと自由度の高さは群を抜いた出来栄えだ。スーパーキャラに育て上げ、リュナンの進行の難易度を下げるのも良し、はたまた派遣せずに高難易度のプレイを楽しむのも良し。その選択肢の豊富さは、シミュレーションRPG好きならば舌を巻いてしまうだろう。
また何よりこのシステムで面白いのが、ユニットの行き来の機会が限られていること。好きな時に自由にユニットの行き来はできず、シナリオ進行の途中、限られた場面でしか行えないようになっているのだ。これが実に上手い。誰をどちらかの軍隊に留めさせるか、そんなしばしのお別れになるが故の「選ぶもどかしさ」があり、プレイヤーに対して良い意味での迷いを与えてくれる。特定のユニットが片方にいないと仲間に出来ないキャラがいたり、見れないイベントがあったりと、そんな各々の要素の数々も、独特の悩む楽しさを演出する。分けたいけど分けられない、だけども分けなければならない厳しさ。「別れの悲しさ」なる心に響くこの痛さは、まさにこの調整ならではの産物と言える。そして、この重大な選択を迫らせるゲームデザインは、如何にも加賀氏らしい。相変わらず、こう言った人間心理に迫る非道なシステムを作らせたら、右に出るものはいないなと唸らされるばかりだ。単に迷う面白味だけでなく、難易度の破綻を防いでる点も見事。自由に切り替えられる仕組みにすれば、スーパーキャラが増産されて面白味のない無双プレイが発生する。そんな拙さをきちんと分かった上で、この制約を設けた辺りもさすがの一言に尽きる。考えて楽しむのがこのジャンルの売りだと、こだわったその調整には全く持って、感服する限りである。
調整の上手さは、軍隊周りのシステムだけに留まらない。マップのデザイン、敵配置、ユニットのバランスと言った部分にも、こだわりの調整が光る。特にマップデザインは秀逸の一言。単なる制圧マップにしても、登場する敵全てが不意打ちを狙う者ばかりだったり、制圧ポイントの周りに大量の投石機がセットされて突入し難くされてるなど、露骨というほどに一つ一つの個性が強い。敵が誰一人出ないマップ、殺人級の能力を持つ大ボスが暴れまわるマップなど、変則的なものも豊富で、その予想だにしない展開の数々は、戦略を考える面白さをより際立たせる。
しかも、マップが全部で40強もありながら、似通ったものが少ないというのもビックリさせられるところ。マップ関連の出来で全体を見れば、ここ最近のシミュレーションRPGの中では、トップクラスのクオリティを誇っていると言っても、何らおかしくはないと言っても良いだろう。
FEのパクリ、二番煎じと言われるのも致し方が無い内容ではある。システムとかソックリなところは多いし、細かい所でもそう言われても仕方の無いところは沢山ある。だが、今作のシミュレーションRPGとしての手応えは、間違いなくティアリングサーガという独立したゲームのものだ。難易度調整の一面と迷いの楽しさを詰め込んだ分隊システム、仰々しさの際立つマップは、FE経験者にも新たな手応えを提供してくれる。褒められない点の存在感は許し難いところだ。だが、ゲームとしては確実なシミュレーションRPGをしている。一概に貶すのも正直、おこがましいと言っても良いほど、今作には強烈な魅力が詰まっているのである。正直、筆者的に言わせてもらえば、今作のゲーム性は間違いなく古きよき時代のFEだ。今のFEでは失われた、考える楽しみが今作には活きている。問題発言かもしれないが、今作がシリーズの系譜を継いでも問題ない、そう言って良いほど作りは深いのである。

しかし、そうバランス調整はそこそこ良い反面、操作性とテンポに対する工夫の無さは残念の一言だ。前者はレスポンスが悪くてお世辞にも快適とはいえない。
そして後者もまた、戦闘のキャラクターの動きが冗長且つ派手さも皆無でテンポが悪く、見ていてつまらない。マップ戦闘の方が遥かに快適な反面、これは無理矢理入れなくて良かったのでは、と言いたくなる存在感の無さを発揮してしまっているのは何とも苦しい限りだ。
その他、グラフィックも全体的に地味さが拭えない。ゲームをやる分には気にならないレベルだが、戦闘シーンのグラフィックを含め、もう少し頑張れなかったのかと、ちょっと突っ込みたくなる。まるで、絵を描いた板が移動するようなあのアニメーションは、さすがに安っぽ過ぎだ。きちんとアニメーションさせて欲しい。
音楽も正直、印象に乏しい。出来は決して悪く無いし、良い曲もあるのだが、どうにも主張が弱い。ここももう少し、張れなかったのかと言いたくなる。
シナリオも全体として、設定周りなどが複雑過ぎて一回では理解し切れない敷居の高さが際立つのが辛い。しかし、随所に仕込まれた愛憎劇、エルンスト将軍を初めとする無駄に個性の強い敵キャラクターと言ったところは、かなり見応えがある。そのエグい一面をきちんと表現している辺り「さすがは生みの親、容赦ねえぜ」とシリーズ経験者なら唸らされるだろう。これでもっと分かり易い作りなら、完璧だったのだが。

他にも、クリア後のデータを使ってプレイできる対戦プレイも、細かいルールの元で作られており、最強ユニットでも展開が一方的にならない調整が図られているのが見事。ボリュームも先の通りにマップ数が膨大な上、やり込み甲斐のあるシステムが豊富で、長く楽しめる。
二番煎じな工夫の数々は決して褒められないし、これをFEの関連作品だと発言した加賀氏も、非常識過ぎたと言わざるを得ない。だが、シミュレーションRPGとしての出来は良好。遊び応えは抜群だし、システム面にも独自の工夫、そしてシナリオにも懐かしいどす黒さがある。単なる問題作とまとめてしまうのは勿体無いほど、見所が多いこの『ティアリングサーガ』。シミュレーションRPG好きなら是非、プレイしてみて欲しい問題作でありながらも傑作だ。今のライトなFEに不満を覚えたプレイヤーも是非。多少、温くはあるけど、この制約の多さと黒さには懐かしいものを覚えるはずだ。
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