Written in Japanese. Japanese fonts required to view this site / Game Review & Data Base Site
  1. ホーム>
  2. Review Box>
  3. Wii>
  4. パンドラの塔 君のもとへ帰るまで
≫パンドラの塔 君のもとへ帰るまで
■発売元 任天堂
■開発元 ガンバリオン
■ジャンル アクションRPG
■CERO C(15歳以上対象) ※暴力、身体欠損描写あり
■定価 6800円(税込)
■公式サイト ≫こちら ※音が鳴ります
▼Information
■プレイ人数 1人
■セーブデータ数 3つ(使用ブロック数:8、SDメモリカードへのコピー可)
■その他 ヌンチャク対応、クラシックコントローラ対応
■総説明書ページ数 18ページ
■推定クリア時間 18〜25時間(エンディング目的:通常エンド)、26〜32時間(エンディング目的:真エンド)、70〜90時間(完全攻略目的)
統合歴511年、エリュシオン王国と軍事大国アテナイの戦争が終結して二年後。
エリュシオン王国王都『ラダマンチェス』での『収穫祭』で歌を捧げていた巫女・セレスの背中に『獣の呪い』の痣が現れ、直後に会場が巨大な”何か”に襲撃される。

観客としてその場に居たセレスの知人、エンデは彼女を救出。
その後、突如二人の前に現れた謎の老婆グライアイに導かれる形で、彼らは王国軍の追跡を振り切りつつ、軍の隔離施設『十三訃塔』へと辿り着く。

グライアイが言うには、この塔の主(あるじ)の肉を食べると、獣の呪いは解けるという。エンデはセレスを助ける為、グライアイから渡された『オレイカルコスの鎖』を手に塔へと向かう。
▼Points Check
--- Good Point ---
◆ヒロイン・セレスの獣化を治す為、探索と介護の二つを交互に行っていく、奇抜な本編構成
◆獣化による制限時間制が演出する、緊迫感溢れるゲーム展開
◆敵に引っ掛けて引きちぎったりなど、独自の手応えと爽快感に秀でた『オレイカルコスの鎖』によるアクション
◆悪戯に難しくなく、適度に頭を悩ます程度のバランスにまとめられた謎解きの難易度
◆ボス部屋に通じる鎖の破壊という一つの目的に一貫した構成、仕掛けや地形、ボスのはっきりとした差別化を凝らしたレベルデザインが秀逸な全13のダンジョン(塔)
◆鎖ならではの攻略性と獣化による制限時間制が醸し出す緊張感が光るボス戦
◆ダンジョン内における豊富なチェックポイント、ショートカットなど、快適さへのこだわりに満ちた配慮の数々
◆連続攻撃に秀でた、隙は大きいがダメージの大きな大剣まで、意外と多彩な攻撃武器の数々
◆容赦無いにも程があるセレスの獣化描写(特に最も悪い状態の描写は鬼畜の一言)
◆恋愛ゲーム並に気合いの入った作りが面白い、セレスとのやり取り(専用イベントまである)
◆力を溜めた後にリモコンを引っ張る快感が素晴らしい、リモコン&ヌンチャクによる快適な操作性
◆操作性の素晴らしさと爽快感を引き立てる、質感満点の効果音
◆長過ぎず短過ぎずの丁度良さでまとめられた総計ボリューム(やり込みも充実)
◆やや古臭さもあるが、キャラクター周りへの気合いの入った作り込みが印象的なグラフィック
◆緻密な世界観設定と興味を抱かせる描写の数々が光る、見所満載のストーリー
◆幻想的で、微かな狂気も秘められた演出周り(特にセレスが肉を食べるムービーデモは必見)

--- Bad Point ---
◆セレスに感情移入できるか否かで感じ方が変わる獣化の時間制限(彼女を絶対に助けるという気になれないと、面倒臭いゲームとしての印象が強まる)
◆基本、ダンジョンと拠点を行ったり来たりに終始する故の煩わしさ
◆鎖による振り子ジャンプのタイミングの掴み難さ(判定が妙に精密で失敗し易い)
◆鎖攻撃主体で戦う内容のものが多く、ワンパターンな感も否めないボス戦
◆やり込み周りの懐の狭さを露呈させているマルチエンディング制(具体的にはタイムアタックのやり込みがし難い)
◆二周目以降でないとぼほ不可能に近い真エンド到達条件
◆対応させた意図が謎な上、使い勝手も良くないクラシックコントローラの操作
◆塔が舞台という設定故のロケーション周りの乏しさ(それでも一定の変化は付けられている)
◆人によってはトラウマになりかねないセレスの獣化描写(特に最も悪い状態)
▼Review ≪Last Update : 12/30/2012≫
それでも彼女は待っていてくれる。

醜くなろうが、なるまいと…。


『ONE PIECE(ワンピース)』を始め、アニメ・漫画作品の原作付きゲームを多く手掛ける会社として知られるガンバリオン初となる、完全オリジナルのアクションRPG。

ヒロインに感情移入できるかで面白さが変わる、極端な作りが特徴の意欲作だ。

ゲーム内容は3Dの三人称固定視点で展開する、アクションロールプレイングゲーム。主人公のエンデを操作し、ヒロインのセレスにかかった『獣の呪い』を解くカギとなる『主肉』なるアイテムを入手する為、『十三訃塔』と呼ばれるダンジョンの攻略に挑むというものだ。
いわゆるダンジョン特化型の構成。基本的に拠点となる『監視塔』と『十三訃塔』を行き来しながら、本編が展開していく仕組みとなっている。舞台となるダンジョン『十三訃塔』はその名の通り、13の塔によって構成されており、その一つ一つをプレイヤーは攻略していく事になる。各塔の最終的な攻略目標は、最上階に潜む主(あるじ)ことボスを倒し、『主肉』と呼ばれるアイテムを手に入れる事。これを入手する事で、次の塔への道が解放されていくようになっている。ただ、例によって最上階に辿り着くまでには様々な障害や謎解きが立ちはばかる。また、仮に最上階に到達できたとしても、ボスが待機する部屋の扉は数本の鎖によって固定されており、中に入る事はできない。なので、ボス部屋に入る為にはこの鎖の元を破壊する必要がある。基本的に各塔ではこの「鎖の元の破壊」が最初の目標として課せられ、これを達成する事で次のボスの撃破へと移行する仕組みになっている。鎖の元は塔内にあるカラクリ扉で守られた部屋の中にあり、これに数発の攻撃を当てる事で破壊できる。鎖の数は塔によって異なり、基本的に序盤は少なめ、中盤以降から徐々に増えていくようになっている。どの塔でもこれをやりながら展開するという事で、何処となく単調な構成に見えてしまうが、塔の構成や仕掛けはきちんと差別化されているほか、破壊する鎖が多い塔では1本1本に到達するまでの過程を短くするなど、配慮が施されている。何よりも、どの塔もやる事が一貫しているので、常に一つの目的に沿えば難なく遊べてしまうのは大きな強みだ。まさにシンプル・イズ・ザ・ベスト。手軽ながらもしっかりとしたやり応えを堪能できる構成に仕上げられている。
ただ、そうシンプルな構成であるのにはもう一つ、理由がある。実は今作、一つの塔の攻略にずっと没頭するタイプのゲームではない。先ほど、『監視塔』なる拠点を行き来しながらと述べたが、その紹介の通りに今作は状況に応じて拠点に戻り、その後にダンジョンに戻る事が求められてくる作りとなっているのである。そのようなプレイを求める原因的要素が、今作最大の特徴でもあるヒロイン・セレスの『獣化』だ。
これも先ほど紹介したが、今作ではヒロインとして登場するセレスと呼ばれるキャラクターが身体が獣に変貌していく『獣の呪い』なる呪いにかかってしまっている。この呪いは時間の経過に伴って進行。最終的には完全な獣へと成り果て、人間へと戻れなくなってしまうのだ。プレイヤーはこの呪いの進行を食い止める為、時々『監視塔』へと戻って様子をうかがったり、場合によっては応急処置を施していく必要がある。要は今作、ダンジョン探索とヒロインの体調管理を同時に行っていく、地味ながらも忙しい内容となっているのだ。これが今作の行き来プレイを強要する原因である。
この『獣化』の進行具合は、画面下部の体力ゲージの左隣に配置された『獣化ゲージ』なる円状のゲージで表示。『監視塔』では減らないが、ダンジョン攻略時にはこれが徐々に減っていき、最終的にゲージが空になってしまうとセレスが完全に獣化。そのままゲームオーバーになってしまう。いわゆる制限時間で、今作ではこのゲージが許す範囲の中、塔の探索を行っていかねばならないのだ。無論、このゲージは塔のボスとの戦いでも問答無用で下がる。なので、凄く減った状態のまま突入してしまうと、取り返しの付かない事態を招く事も。ただ、先ほどに応急処置と述べた通り、ゲージの回復手段はある。それはダンジョン内に巣食う魔物(敵)から剥ぎ取れる『獣肉』を与える事。今作の主人公のエンデは、通常攻撃用の武器と『オレイカルコスの鎖』と呼ばれる武器を所持しており、この内の鎖を倒れた敵に引っ掛け、そのまま勢いよく引っ張ると肉を手に入れる事ができるのだ。これを拠点にいるセレスに与える事で、獣化の進行を抑える事ができる。基本的に本編ではゲージが減りかけたら、肉をセレスに与えに行き、回復したらダンジョンに戻るを繰り返す形でプレイしていく事になる。面倒臭さ漂う構成ではあるが、醜い獣になってしまう女性を助けるというその設定から来る使命感はかなりのもの。また、そのような制限時間がある事がゲームに程好い緊張感を与えており、素潜り的なゲーム性を演出しているのも大きな見所だ。
他にも、先ほど紹介した第二の武器である『鎖』も、肉を取る以外に敵を拘束して身動きを取れさせなくしたり、仕掛けを動かしたりなど、多様なアクションが楽しめるようになっているのも見逃せない特徴だ。
ダンジョン攻略がメインと、内容自体はシンプル。だが、ヒロインの獣化という惨たらしい要素と設定を備え、単純な遊びの中に独特の緊張感と圧倒的な使命感を演出。全体的にストーリー重視型の作りだが、それが悲惨で重苦しい体験をプレイヤーへと提供する、唯一無二の特徴を持ったアクションRPGとして仕上げられている。

そんな今作の魅力はヒロイン・セレスの『獣化』がもたらす緊張感と使命感だ。一定時間が経過すると、彼女が醜い獣になってしまう。そんな惨たらしい事実、タイムリミットが課せられた中、一筋縄ではいかないダンジョンを攻略していくというのもあり、プレイ時における緊張感、使命感は相当なもの。特に男性プレイヤーであれば、助ける対象がか弱い女性であるというのもあり、全神経を注いでまで攻略に集中してしまうほど、熱中度の高い内容になっている。
しかし、それら以上に今作がずば抜けているのは罪悪感であったりする。先に述べたが、セレスは時間が経過するにつれ、少しずつ身体が獣と化していくのだが、これが実際に生々しく描かれ、プレイヤー自身が犯した失態を最悪な形で見せ付けられるのだ。当然ながら、獣化は時間が経過すればするほど、どんどん酷くなっていく。初期段階こそ身体の一部が少し変わる程度なのだが、中期になると体の至る所に生々しい触手が現れ、もはや人間とは言い難い姿に成り果ててしまう。そして、末期。それがどんな姿になのかはネタバレになる為、伏せさせて頂くが、はっきり言って興味本位で見る事はお薦めしない。見たら見たで、激しく後悔するどころか、人によってはトラウマにすらなるだろう。
そして、そんな末期の姿を面倒を怠ったプレイヤーは見せ付けられる事になる。当然ながら、見せ付けられた時の罪悪感は計り知れないものがある。しかも、セレス自身は例えそんな状態になろうが、プレイヤーこと主人公を非難しない。健気に振るまうのである。そんな事をするだけに、プレイヤーの心は「ザックリ」エグり取られる。そして、嫌でもこんな姿は二度と見たくないという気持ちにさせられ、自然と彼女の面倒に力が入るようになるのだ。獣の呪いからヒロインを救う、それだけでも独自のゲーム性が演出されているが、このようなストーリー上の説得力を高める工夫も今作は徹底。それもものがものだけに、その恐ろしさを妥協無しでしっかり描くというある意味、非情なまでにこだわったものに仕上げられている。何故、ヒロインを助けながらダンジョン攻略をしなければならないのか?と、ゲーム部分を最優先で求めるプレイヤーなら思うかもしれない。しかし、実際に彼女の面倒を一切見ずにゲーム部分だけに特化した時、そうしなければならない現実を思い知り、自身の罪の重みを痛感させられるだろう。そんな惨たらしい事を描いてまで、今作はヒロインを助けるというゲーム性を演出。ストーリー設定が存在しなければならない理由というものをしっかりと描いているのである。
また、アクションRPGとしての基本的な出来も良好だ。特に『オレイカルコスの鎖』を使ったアクションは非常に良く出来ており、敵のモンスターから肉を引きちぎる攻撃は、Wiiリモコンのポインティングとセンサー操作を効果的に活かした、爽快なアクションとして完成されている。ダンジョン設計、謎解き、レベルデザインもよく練られており、プレイヤーを飽きさせない工夫がしっかりと成されている。そして、各塔の最上階で待ち受ける主(あるじ)ことボスも個性付けが見事なほか、隙を付いて弱点である肉を勢い良く引きちぎってダメージを与えるという、鎖を武器とした今作ならではの攻略性に富んだ内容にまとめられているのが面白い。拠点こと監視塔とダンジョンを行き来する内容から、ショートカットを絶妙な位置に設けたりなど、痒い所まで手の届く配慮が凝らされているのもお見事の一言に尽きる。
しかし、やはり行ったり来たりを繰り返す故、面倒臭さが僅かにあるのも事実。また、使命感と緊張感、罪悪感が魅力と語ったが、裏を返せば、セレスに感情移入できなければそれも半減する。更にこの獣化とセレスに対する面倒見の具合はエンディングの結末にも直結する為、純粋にアクションRPGの部分が楽しめない作りとされているのも好みが分かれると言わざるを得ない。そのゲーム性に説得力を出そうとする工夫はしっかりしているが、それ故に拘束されている感は非常に強く、プレイの幅を狭めているのは人によってはもどかしさすら覚えるだろう。
とは言え、作り込みの深さは相当なもので、重苦しく、緊張感に富んだゲーム展開は今作でしか味わえない唯一無二の魅力が満載。理由付けも大変しっかりしており、それがアクションRPGのゲーム部分と違和感なく融合しているという点で完成度の高さを実感させられる。ストーリーを重視している為、ゲーム部分に期待する方には合わないが、作り込みと完成度の高さは本物。極端過ぎると言ったらそこまでだが、まさにそう言った路線を突き詰めたかの如き内容。ストーリー重視型で、色んな意味で濃くて隙の無いアクションRPGになっている。

その他、鎖のアクションの部分で触れたが、リモコン&ヌンチャクによる操作も良好。ただ、一方でもう一つの操作体系として用意された、クラシックコントローラの操作は劣悪。特にポインティングが非常に面倒で、まともに遊ぶのも厳しいものになってしまっている。正直、リモコン&ヌンチャク操作が良好なだけにわざわざ対応させた意図が分からない。ここまで良くない操作であれば、無理に対応させないで欲しかったところだ。折角、基本操作が良い出来なのに、こういう所で評価を落としてしまっているのは何とも勿体無い。
対し、難易度設定全般は良好。ダンジョンの謎解き、戦闘も含め、難し過ぎず優し過ぎずの丁度良いバランスになっている。再開時の負担を和らげる為、随所にチェックポイントを設けるなど、細かい気配りが利いているのもナイスだ。
ボリュームも長過ぎず短過ぎずの丁度良さで遊び易い。また、エンディング制覇などのやり込みも充実しており、長く遊べる為の仕掛けが豊富に凝らされているのもニクい。
グラフィックも少し古臭いが、キャラクターモデルは結構頑張っていて、特に実質、主人公とも言えるヒロインのセレスは表情から細かい動作に至るまで、丁寧に作られている。如何に今作がセレスに力を入れているかがうかがい知れる。
対し、音楽は雰囲気重視でインパクトに欠ける。ただ、ボス戦やメインテーマ曲は非常に印象的。随所で挟まれるクラシックアレンジも良い味を出していて、本編を大いに盛り上げてくれる。

演出周りも素晴らしいというか、おぞましい。特にセレスの獣化、獣肉を食べるシーンは狂気を感じさせるものとなっており、見る者に言い様の無い不安を抱かせる。ムービーも豊富で、特に主肉を食べさせた後に流れるムービーはそのカット割りも含め、印象的且つ謎めいたものになっているので必見だ。
ストーリーも登場人物が少ない故に分かり易さが突出しているほか、興味を引く描写も多く、思わず見入ってしまう魅力に富んでいる。世界観の描写も細かく、雰囲気作りがしっかりしている点に関しても並ならぬこだわりを感じさせられる。
総じてゲームデザイン、世界観構築、操作性、ストーリーに至るまで非常に丁寧に作り込まれた作品で、傑作と言っても差し支えない高い完成度を誇る。
しかし、ストーリーをこの上なく重視しており、ヒロインのセレスを助ける事に重きを置いた内容な為、彼女にに感情移入できるか否かでその評価が大きく変わる。正直な所、アクションRPGとしてのゲーム性を強く求めるプレイヤーにはあまりお薦めできない作品と言える。対し、ストーリーを求める方ならば、相性は申し分無しなので、自信を持ってお薦めできる。それでもグロテスクな描写が多いので、苦手な人は注意して欲しい。色々と癖の強い要素が濃く現れた今作。ストーリー性重視のアクションRPGをプレイしてみたい方に対してお薦めの意欲作にして傑作だ。悲惨な目に遭ったヒロインを何としてでも助けよう。試されるのは、己の献身力だ。
≫トップに戻る≪