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≫theresia -テレジア- - Dear Emile -
■発売元 アークシステムワークス
■開発元 ワークジャム
■ジャンル トラップ脱出アドベンチャー
■CERO C(15歳以上対象) ※出血、暴力、犯罪、殺傷、ホラー描写等あり
■定価 4800円(税別)
■公式サイト ≫こちら
▼Information
■プレイ人数 1人
■セーブデータ数 3つ(※フラッシュメモリバックアップ)
■総説明書ページ数 21ページ
■推定クリア時間 12時間〜20時間(エンディング目的)、35〜40時間(完全攻略目的)
赤子をあやす銀髪の女と、赤い花畑。
そんな夢から目覚めた少女は一人だった。
誰の姿もなく、辺りはしんと静まり返っている。
何処かの地下牢獄と思われるこの場所。
状況を把握できず立ちすくむ少女の脳裏に流れる、血に塗れた銀髪の女の映像。
少女は女が誰なのか、自分が何故ここにいるのか、全く思い出せない。
―――少女は、記憶を失ってしまっていた。

やがて、少女は冷たい牢獄施設を彷徨い続ける。
失われた記憶を取り戻し、ここから脱出する為に。
▼Points Check
--- Good Point ---
◆コマンド選択型アドベンチャーと3DダンジョンRPGの移動要素の二つを混ぜて構成された、独自のゲームシステム
◆たった一人で謎の施設を淡々と調べ続ける、孤独の恐怖感炸裂のゲーム展開
◆詰まった時の奥の手「しらみ潰し」を封じ、プレイヤーの観察眼と判断力を問わせるようにしたダメージシステム
◆謎の施設という舞台設定を活かした情景描写、独特の地形設計が光るマップデザイン
◆単純な物調べに地雷除去、更には薬品調合まで、バリエーション豊かな謎解きネタ
◆冷静に周囲を観察すれば確実に解けるよう調整された、絶妙な謎解き絡みのバランス
◆曖昧なテキスト表現でプレイヤーの判断力を要求してくる、絶妙なヒントメッセージ
◆内容はありがちだが、予想だにしない展開が続くなど、見所満載のシナリオ
◆テキスト表示をおかしくするなど、不条理さを際立たせる表現が見事なデモの演出
◆二つの異なるシナリオ、ノーダメージのやり込みと意外に充実した総計ボリューム
◆良好な操作性(特にボタン操作のレスポンスの良さは秀逸)
◆施設の異常性を演出する、荒いテクスチャで描かれた移動パートのグラフィック
◆施設内の不条理さを際立たせる、電子音交じりの不気味な音楽
◆ほぼ常時行えるのが嬉しい、親切なセーブ機能(直に始められ、直に止められる)
◆メッセージ速度調整にバックログなど、痒い所にまで手の届く設計のオプション機能

--- Bad Point ---
◆親切ではあるが、逆にゲームを盛り下げもする常時セーブ機能(セーブロードを繰り返すスタイルでやっていけば、トラップの回避が楽にできてしまう)
◆判定精度が妙に甘いタッチペン操作(また移動周りの操作もかなり煩わしい)
◆嫌いな人にはかなり応える、虫の演出(効果音もかなりきつい)
◆描写はソフトだが、テキストは生々しいので、苦手な人には応える残虐描写
◆さすがに生々しくやり過ぎな、マーテル編での死体出現の演出
◆設定上の都合とは言え遅い感も否めない、移動パートの歩行速度
◆酷い音割れをしてしまっている、エンディングの音楽(最後の最後で台無し…)
▼Review ≪Last Update : 12/27/2009≫
貴方は永遠にここに。永遠に血塗れに。

そんな悲しき二人の女性と兄妹の物語。


携帯アプリ用タイトルとしてリリースされ、圧倒的な孤独感と謎めいたシナリオで好評を博した脱出アドベンチャーゲーム『theresia -テレジア-』をニンテンドーDS向けにアレンジした作品にして、新たなシナリオを追加した新作。開発はアプリ版と同様、『探偵 神宮寺三郎』シリーズを手掛けたワークジャムが担当。

孤独だからこそ恐怖感が光る傑作だ。

ゲーム内容は、謎解き主体で進行する脱出アドベンチャーゲーム。舞台となる謎の施設のマップを移動し、部屋に仕掛けられた謎を解き、施設からの脱出を目指していくというものだ。
本編は、マップ移動と部屋の探索の二つのパートを交互に介しながら展開。マップ移動は『ウィザードリィ』や『世界樹の迷宮』のような、3DダンジョンRPGスタイル。部屋探索のパートは、昔ながらのコマンド選択型アドベンチャースタイルと言ったように、それぞれが切り分けられた構成となっている。また、本編は章単位で進行。各章共に移動できる範囲のゴール(目的地)に到達すると章クリアとなり、次の章に進むことができる。ザッとだが、今作の概要(基本的な作り)はこんな感じだ。3DダンジョンRPGのような主観視点で展開するが、基本は謎解き主体で、敵との戦闘とかは無い。その為、至って物静かな内容となっている。
ただ、静かな内容にドッキリを与える要素が幾つか。その代表とも言えるのが、謎解き主体のアドベンチャーには珍しいダメージシステム。またの名の『トラップ』。今作のプレイの8割型を占める部屋探索のパートだが、実はこの部屋には決まって猟奇的なトラップが仕掛けられており、誤って調べると、プレイヤー自身がダメージを受けてしまうのである。当然ながら、ダメージを受けると体力ゲージが減少。ゲージが尽きてしまえばプレイヤー死亡となり、ゲームオーバーとなってしまう。しかもトラップの中には調べたと同時に即死となるものもあり、一瞬の内にしてゲームオーバーとなってしまう事もあるほど。 コマンド選択型アドベンチャーという体裁を取りながら、行き詰った際の最終手段、『しらみ潰しに調べる』が迂闊に実行できないという、極めて珍しいゲームデザインが成されている。それ故に、部屋の探索ではプレイヤー自身の冷静な観察眼が問われる。そして、常に慎重な観察が求められてくる為、探索時に醸し出される緊張感と恐怖感も他のアドベンチャーの倍以上。まさに、たった一人で謎の施設内を探索するという内容に絶妙にマッチした仕上がりとなっている。
ただ、常にギャンブルをするのかというそうでなく。基本的に部屋の探索は、物を見る『アイコマンド』、物に触る『ハンドコマンド』の二つを使って行われ、この内の物を見る『アイコマンド』を使って調べれば、大半のトラップは見破る事ができる。つまり、アイコマンドで物を調べ、怪しそうでなければハンドコマンドで触る、とやっていけば問題なく進めていける。そんなギャンブルのようにやっていくゲームにはなってないのでご安心を。
だが、トラップが見破れると言っても、はっきりと「トラップがある!」と情報が表示される訳ではない。「あるかもしれないし、無いかも知れない」という曖昧な言葉で表示されるので、最終的な判断はプレイヤーの手に委ねられてくる。見破れると言っても、結局はプレイヤーが判断しないとダメなのがミソ。そこがこのシステムの面白いところである。

そんなトラップから醸し出される独自の緊張感と恐怖感こそが今作の大きな売りだ。常にプレイヤーの観察眼が問われ、それが良い形でも悪い形でも返ってくるこの構成は、調べるに過ぎないコマンド選択型アドベンチャーでは味わえない手応え、そして痛みと言うものを生々しく伝えて来る。
先に紹介した回避ヒント、トラップがあるのか無いのかが分かるようで分からない言い回しも絶妙で、最終的にはプレイヤーの判断力が問われてくるように作られているのが素晴らしい。この絶妙な言い回しを書いたシナリオ担当者は、冗談抜きに天才と言っても何らおかしくない。よくぞ、ここまで秀逸な言い回しが書けたものだなと、感心させられるばかりだ。
本編から醸し出される、圧倒的な孤独感も見事だ。ホラー系のゲームでありながら、本編では主人公しか生物が登場しないのだが(ある部屋で虫が出て来るが)、この一人しかいないという基本設定が、いつ何が襲ってくるのか分からぬ恐怖を演出し、独自の緊張感を作り上げている。舞台となる施設もその恐怖を絶妙に演出する。何の目的を持って仕掛けられたのかすら不明なトラップ、あちこちに飛び散った大量の血痕、薄暗い通路、そして腐敗した人間の死体。それら施設内に点在する物が、施設の異様さを高め、プレイヤーの不安感を嫌というほど煽り立てる。こんな有様では、仮に自分がそこにいても不安になって当然だとも言えるほど、説得力の高い作り込みが成されているのだ。
そして、そんな静かな空間でトラップに引っ掛かってしまった時の衝撃の凄さ。まさに、この一人しかいないという設定だからこそ活きたものだと言える。これが仮に、他に人間がいる設定であったら、これほどの不安感は演出するなど不可能だっただろう。まあ、それもそれで、ある意味、別の怖さがあるが。
そして、こんな不気味な施設で展開されるストーリー。強烈である。記憶を失った主人公が、少しずつ過去を取り戻していく、ありがちな内容であるのだが、舞台設定と構成の巧みさも相まって、プレイヤーの関心を引いて離さない。特に記憶の復活順序が、時系列シャッフル(バラバラ)で、次に何の記憶が復活するのか読めないのが絶妙。予想外の展開の仕方をするので、自然と先へと進みたくなってしまう。記憶の内容が、舞台の施設と合致しない(最終的には合致するが)風に作られてるのも、ストーリーの謎を引き立てており、プレイヤーに強い関心を抱かせるように作られてるのも上手い。まさに、この舞台だからこその強みが発揮されていると言っても良いだろう。
肝心のストーリーの内容自体も大変魅力的。何故、主人公は不気味な施設に閉じ込められたのか、また記憶が戻るたびにフラッシュバックする謎の女の正体は何なのかなど、謎を解く楽しみもあってつい見入ってしまう。最終的にそれらの伏線が繋がっていく過程も秀逸で、特に終盤で、ある人物の死体を発見してからの展開は必見。そのあまりに悲しい展開には、少し目頭が熱くなってしまうだろう。
一人でトラップだらけの施設を探索する。ベタなネタではあるが、そのベタさをより魅力的なものへと仕立て上げる為の工夫が、今作ではマップ構成からストーリーまで、細部に渡って徹底されている。そして、たった一人だからこその恐怖感もまた、ゾンビなどの化け物が出て来るホラー系ゲームとは一線を欠く味わいに満ち溢れている。
正直、そのゲームデザインは芸術とも言えるほど。一人だけでも十分、怖いものは作れる!そんな熱い意気込みが、今作には隅々にまで仕込まれているのである。単にそれだけでなく、ゲームとしても、ストーリーとしても面白いものを作ろうとするこだわりもまた然り。その丁寧な作り込みは、本当に溜息が出るほどだ。

本編でプレイヤーが解く事になる謎解きも、単純な物調べから地雷除去など、多彩なネタが用意されていてプレイヤーを飽きさせない。アイテムを使って解く謎解きも二つのアイテムを組み合わせるなど、考える面白味に秀でており、単に拾って使うだけで終わらせてないところに構成の上手さとセンスが滲み出ている。トラップとの兼ね合いも上手く、手を出したいけど出し難いもどかしさが、進行の良い足かせになり、独特の緊張感を醸し出しているのも秀逸だ。
謎解きも含めた、全体のゲームバランスも絶妙。基本、メッセージと周囲の状況をじっくり観察すれば必ず解けるバランスとなっており、確かな達成感と満足感を得る事ができる。
全体のボリュームもなかなか。全部で二つのシナリオが収録されており、両方クリアするだけでも30時間は楽しめる。トラップ全回避を目的とした、ノーダメージクリアのやり込みがあるなど、アドベンチャーゲームとしては珍しい遊びが楽しめるのも見逃せないところである。
テクスチャ荒めながら雰囲気抜群のグラフィック、不気味なテイストの音楽も本編の不気味な世界観に絶妙にマッチしている。特に音楽は電子音交じりの作りが、施設内の不条理さを嫌というほど煽り立てる。曲単体も良い曲が揃っており、特に一部のにてイベントで流れる子守唄は実に印象的である。
そして演出全般も、ストーリーデモのカット割りが実に面白い仕上がり。テキストをあえてバラバラに表示して、不条理な状況を見せ付けるなど、全編において独自のセンスが発揮されている。それを後押しする恐怖系の演出も素晴らしく、プレイヤーを安心させておいて急に死体を出現させるなど、驚かさせるタイミングが絶妙。嫌がらせ精神爆発しまくりなその様には、何度も「ビクッ」としてしまうこと間違い無しだ。

オプション周りもメッセージ速度調整からログ機能など充実しているほか、常時可能なセーブにレスポンスの良い操作性なども秀逸な出来栄え。ホラーゲームながら、出血から身体欠損と言った、グロテスク系の演出もソフトで、苦手な人も十分見耐え得るものになってるのも見事だ。ただ反面、テキストの表現が生々しいので、そこで人によっては拒否反応を覚えてしまうかもしれない。まあ、そのテキストから妄想しなければそれで解決なのだが。
ともあれ…タッチペン操作の判定精度が甘く、取って付けた感があるのと、エンディングで流れる音楽にノイズが目立つのは残念だが、全体の出来栄えはかなりのもの。携帯機を思わせぬ圧倒的な恐怖感と緊張感、細部まで丁寧に作り込まれた内容にシステムと、何処を取っても高い完成度を誇っている。一人だからこその恐怖感がプレイヤーに強烈な衝撃を与える、この『theresia(テレジア) Dear Emile』。
15歳以上対象の為、小さな子供やホラーが極端に苦手な方にはお薦めできない。しかし、それ以外のDSを持っているユーザーなら是非、プレイして欲しい隠れた傑作だ。貴方のニンテンドーDSを血塗れにしよう。オススメの逸品です。
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