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≫世界樹の迷宮
■発売元 アトラス
■ジャンル 3DダンジョンRPG
■CERO A(全年齢対象)
■定価 5229円(税込)
■公式サイト ≫こちら
▼Information
■プレイ人数 1人
■セーブデータ数 1つ(※フラッシュメモリバックアップ)
■総説明書ページ数 37ページ(縦型)
■推定クリア時間 40〜50時間(エンディング目的)、120〜150時間(完全攻略目的)
緑に囲まれた肥沃の大地。
ある地方に『エトリア』という小さな街があった。何の変哲もないその街は、『世界樹の迷宮』なる巨大な地下樹海の迷宮の発見を境に大陸で最も有名な都市となる。

そこには全てがあった。
名も知らぬ草花が不可思議な果実をつけ、得体の知れぬ獣達が徘徊するその森には、莫大な財宝が眠っていた。

迷宮の噂を聞いたものは、老いも若きもみな、そこを夢見るようになり、多くの冒険者達がエトリアに訪れ、迷宮へ挑戦してきた。そして今日もまた、迷宮の噂を聞きつけ、新たな冒険者が街を訪れる…。
▼Points Check
--- Good Point ---
◆未知の迷宮に潜っていく面白さにこだわった、探索重視の自由度の高いゲームシステム
◆『迷宮の最深部を目指していく』という、もの凄く明確に設定されたプレイヤーの目的(遊んでいて、何をすれば良いのかと迷う事に陥り難い)
◆最深部を目指す目的を尊重した、想像力をかき立てる淡白なストーリーと世界観設定
◆自由度の高さを象徴する、ゲームブック風味の味わい深いテキスト
◆オリジナルのマップが描ける、DSの特性を上手く繁栄させた魅力的なマップ作成機能
◆バラエティーに富んだ全9種類の職業(自分なりのキャラを考える、メイキングも面白い)
◆独自の成長パターンが構築でき、プレイヤーの嗜好を反映できるのが秀逸な『スキル』
◆シンプルながらターン表示によるやり込みなど、多様な遊びが凝らされた戦闘システム
◆苦労なくして冒険は成り立たないという説得力に富んだ、辛くて適切なゲームバランス
◆樹海とは思えぬほど、ロケーションに富んだダンジョンの各階層(第五階層は必見!)
◆サブクエスト、アイテム図鑑完成など、無駄に充実したやり込み要素
◆3DダンジョンRPG初心者にも優しい、チュートリアルを始めとする優れたサポート機能
◆樹海の空気感を綺麗に表現した、爽やかさ溢れるグラフィック
◆古臭さ溢れる旋律が印象的な、FM音源で仕上げられた珠玉の音楽

--- Bad Point ---
◆物足りなさ漂う操作性(カニ歩きの不備、LRボタンによるステータス切り替えなど…)
◆武器購入時における、現装備武器との威力確認表示の不備(強い武器なのか、弱い武器なのかが一切表示されない。これは地味に辛い…)
◆中断セーブの不備(できた方が良かった気がする…)
◆一部、能力的に強力極まりない職業の存在(特にバード、ブシドー)
◆特定の職業が仲間にいなければ、倒すのすら困難なラスボス(ちょっと理不尽…)
◆キャラのレベルが上がるにつれ、宿泊料金が上がっていく宿屋
◆全員回復後に特定のボタンを押すとフリーズすると言った、バグの存在
▼Review ≪Last Update : 8/23/2008≫
その先に、何が待つかは分からない。

進んでも良いし、退いても良い。どんな判断を下すかは冒険者の自由だ。


『3DダンジョンRPG再生計画』の名の元にリリースされた、アトラス久しぶりの完全新作の3DダンジョンRPG。キャラクターデザインは『吉永さん家のガーゴイル』などで知られる日向 悠二氏、音楽を『イース』、『アクトレイザー』などで知られる古代 祐三氏が手掛けている。

挑戦意欲を刺激させる狙った古臭さが新鮮な、3DダンジョンRPGの傑作だ。

3DダンジョンRPG…そのジャンルを聞いて、ゲームに精通した方ならば通称『ウィズ』こと『ウィザードリィ』シリーズが脳裏に浮かぶだろうと思う。実際、本作の基本的な内容はその『ウィザードリィ』シリーズとほぼ同じ。『世界樹の迷宮』と言われる巨大樹海へと入り、敵と戦闘したり、仕掛けを突破しながら迷宮の最深部を目指してひたすら潜っていくという、ストレートなプレイスタイルを起用した、3D主観視点で展開するダンジョンRPGとなっている。
しかし、かと言って本作、単なる『現代版ウィザードリィ』と言ったようなものにはなってない。基本的な骨組みこそ、ウィズのような旧来のスタイルを取り入れてはいるが、システム周りにおいては、数多くの独自の試みが成されている。
まず一つ目として、それぞれの役割が分担された画面構成。本作ではニンテンドーDSのハード特性を活かし、上画面をダンジョン内の移動、戦闘を中心とし、下画面はダンジョン全体のマップを表示するという、思い切った画面分けを決行。それまで一画面で展開されてきた3DダンジョンRPGでは不可能だった、快適なプレイ環境を実装している。
更に面白いのが、このマップ画面における『作成機能』の存在。何と今作では、タッチペンを使って壁や床を書いたりと言った、プレイヤーオリジナルのマップを作る事ができてしまうのである。しかも、できるのは壁や床を書くだけに留まらず。全部で15種類のアイコンをセットし、ポイント(例えば次の階層への階段がある場所とか)となる場所に印をつけたり、またメモを貼り付けて文字を入力すると言った事までできるのだ。
自分だけにしか分からない情報を書き込んだりしていくその感触は、市販の方眼紙にダンジョンのマップを書き込む遊びそのもの。昔、ウィズなどの3DダンジョンRPGで、オートマッピング機能(プレイヤーが進むことによってその足跡がマップとなっていく機能)が無い為に、方眼紙にマップを書く事に熱中したプレイヤーにとっては、まさに狂乱モノの衝撃、そして時代の進化というものを痛感するだろう。勿論、そう言った方眼紙にマップを書き込んだ事の無い世代にとっても、その自由度の高さには夢中になってしまうこと、間違い無し。
それまで、ユーザーの間の遊びに過ぎなかったものを本編に搭載。DSならではとも言える、新鮮でいて懐かしい手応えが味わえるようになっているのだ。
また、『スキル』と呼ばれる特殊技能を持った9つの職業も、本作独自の試みの一つ。今作ではゲームを開始する前、パーティメンバーを『冒険者ギルド』と呼ばれる街の施設で作成する事になるのだが、ここで選べる職業がまたどれも、強い個性を持っていて、戦闘を通して育てる度に異なる成長を遂げていくのである。その職業の個性を色濃く現しているのが先の『スキル』と呼ばれる技能の存在。いわゆる『特技』で、メニューの『CUSTUM』と呼ばれる画面で『スキルポイント』なる数字を強化させたい能力や技に割り振る事で、プレイヤー独自の成長パターンを構築する事ができるのだ。だから、同じ職業であっても配分を変えれば、全く違ったキャラへと変貌することも。プレイヤーの工夫次第によって、自分だけのキャラクター(職業)を生み出す事ができてしまうのである。
一部、特定の条件を成し遂げないと使えない職業があったり、後のゲーム展開の優劣に響く能力を持った職業がいたり、若干調整不足なところもあり、お世辞にも上手くまとまっているとは言い難いのだが、豊富な育成パターンや個性の強さは、それまで職業別の個性に特化してきた3DダンジョンRPGに新たな一石を投じたと言ってもおかしくはないだろう。
他にも戦闘における『ブースト』なる強力な技の存在など、独特の要素は盛り沢山。
古いものを基本としながらも、新しさを多く加味。このように今作は、古いんだけど今っぽいという、不思議な手応え溢れる3DダンジョンRPGに仕上がっているのだ。

だが、そう言いながら実は今作最大の魅力はその『古さ』にあったりする。<確かにマップ作成機能やスキルなど、新しい要素も魅力的と言えば確かなのだが、それ以上に今作はゲーム全体に漂う『古さ』が凄いインパクトを放っているのだ。
基本システムもさる事ながら、冒険を重視した淡白なストーリー、全滅前提の硬派なゲームバランス、そしてFM音源で仕上げられた音楽…と。そのどれもこれもが強烈なのである。
特に注目すべきは、淡白なストーリーと全滅前提の硬派なゲームバランスの二つ。前者は一応、元とするストーリーはあるのだが、作中ではそんな会話やら、説明とかのある場面は少なめ。重要なのは冒険…というスタンスを取った作りに徹しているのである。また、途中で選択肢が現れる場面とかでも、昨今のRPGみたいに強制されることもなく、「それをしても良いし、しなくても良い」と言った感じに客観的なコメントで返されるようになっているほど。まさに、大事なのは冒険だという徹底振り。シナリオに縛られる昨今のRPGに対するアンチテーゼとも言えるようなこだわりが炸裂しているのだ。
後者もまた然り。昨今の「序盤は滅多にやられることはない」というスタイルに反し、「序盤でもやられる」という極辛な調整を施してるので、生半可な気持ちで挑むと火傷どころか、大火傷必至。「苦労なくして、冒険は成り立たない!」とも言うべき、当たり前の厳しさを維持しているのだ。誰もが簡単にクリアできるだなんて、昨今のゆとりな理念などこれっぽっちも無し!だから、今作のゲームバランスには「誰もがクリアできる」だなんて定説無し。本当に、死ぬ気で頑張らないプレイヤーは絶対にクリアできない…のである。もう、これらを見て、今作が如何に古い理念に重きを置いたゲームかはお分かりになっただろう。そして、その古さが如何に強烈なインパクトを放っているのかも。
けど、この古さこそが今作のゲームプレイをより面白いものにしてくれるのである。ストーリーがほとんど語られないにしても、それすなわち、その先に何が待っているのかが読めないから、それを明かしたい為に、迷宮の奥へと進みたくなるし、全滅必至のバランスもそのストーリーの薄さもあって、逆に苦痛にならない。それのみならず、このバランスには「これ以上先は見てはいけない!」という迷宮の謎を知る何者かのメッセージとも取れるから、逆に「それでも俺は見るんだ!」と言う挑戦意欲すら刺激させられる。そして実際、迷宮の真相に当たる階層にまで達した時には、そこに到着した者だけにストーリーの真相が暴かれるというおまけが用意されている。到着した人だけが知れる存在がある。そんなものがあっては、余計に先に進みたくなるのも当然だろう。
そんな感じに今作は「古さ」をゲームの面白さの根幹としている。練られたストーリーとか、そういうものではなく、何を「目的」とするかという、ゲームとしての強みを大事にしているのだ。だから、遊んでいてモチベーションが下がる事も、嫌気が刺す事もそんなに無い。不親切だからこそ、プレイを大いに引き立ててくれるのである。
確かに、不親切が故に現代のRPGに慣れた方には物足りなさを覚えるかもしれないだろう。しかし、凝ったストーリーなんてのはRPGでは本来、余計な物。それを取っても、元がしっかりしていれば面白さなんて変わらない。
実際に今作を遊んでみれば、如何に凝ったストーリーと言うのがゲームの面白さをごまかすものか、それを痛感させられるだろう。それほどまでに、今作は『古さ』の魅力が引き出されている。正真正銘「記憶に残る冒険」が楽しめるのだ。

その他、古さを煽るFM音源による古代氏作曲による音楽も、記憶に残る名曲揃い。「音楽を聴きたいが為にゲームをやる」という昔懐かしい手応えを演出している。プレイヤーが挑む事になる世界樹の迷宮の階層も、バリエーション豊か。森を主としながらも、ここまで個性的な地形は表現できるんだ!…というデザイナースタッフの執念を感じさせられるだろう。特に第五階層は、何が何でも見るべき価値がある。
総計ボリュームも膨大。階層数の多さもさることながら、サブクエストやアイテム収集、モンスター図鑑など盛り沢山で、やり込むとなると100時間は余裕で超過する。
また、今作では影をひそめがちだが戦闘システムも、シンプルなターン制のコマンドバトルでありながらも、「どれだけ早くのターンで敵を倒せるか」と言ったやり込み要素が加味されていて、やたらと熱い。戦闘バランスも力勝負でなく、技のパターンを重視した戦略性溢れる調整で、戦い甲斐があるのもRPG好きにはたまらないところだ。
そして、初心者救済処置としてチュートリアルなども充実。厳しいバランスとしながら、導入部は広くすると言ったこの試みには、「誰もが楽しめるゲーム=緩いゲーム」という定説の無意味さを痛感させられるだろう。ただ、少し贅沢をて言うならば、携帯ゲーム機の特性を考慮し、中断セーブ機能は導入して欲しかった。流石に街やダンジョン内の特定の装置でしかセーブができないと言うのは、厳しい…。

また、操作性周りにもカニ歩き(視点を固定したまま左右に動く事)が無かったり、装備画面でLRによるキャラ切り替えが無いなど、難があるのが辛い。特にカニ歩きは、この手のゲームではお馴染みとも言える操作なだけに、何が何でも入れて欲しかったところだ。イチイチ視点を切り替えないといけないのは煩わしいし、何よりもテンポを悪くする。
他にも、先の職業の事や最大レベルの低さ(70まで)なども辛いところ。
しかし、ゲーム自体の出来は申し分無し。古さを押し出したバランスに演出、そしてマップ作成機能にスキルなど、いずれの要素も綺麗にまとまっていて、新たな3DダンジョンRPGとしての地位を確立している。現代のRPGに慣れたユーザーには辛いかもしれないが、やり込み甲斐のあるシステムと狙った古臭さが異彩を放つ、この『世界樹の迷宮』。
3DダンジョンRPG好きは勿論のこと、DSを持つコアユーザーならプレイすべき傑作だ。特にコアユーザーには文句なしにお薦め。脳トレのようなライトなゲームがDSの全てではないことを、これをやって思い知るべし。迷宮に足跡を刻め。
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