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≫極限脱出 9時間9人9の扉
■発売元 スパイク(現:スパイク・チュンソフト)
■開発元 チュンソフト(現:スパイク・チュンソフト)
■ジャンル 脱出×サスペンス
■CERO C(15歳以上対象) ※暴力、出血、犯罪描写等あり
■定価 5040円(税込)<Best版:2480円(税込)>
■公式サイト ≫こちら
▼Information
■プレイ人数 1人
■セーブデータ数 1つ(※フラッシュメモリバックアップ)
■総説明書ページ数 29ページ
■推定クリア時間 5〜6時間(エンディング目的:バッドエンド込み)、12〜18時間(真エンディング目的)、35〜50時間(完全攻略目的)
平凡な毎日を過ごしていた、ごく普通の大学生、淳平。
ある日、彼が目を覚ますと、そこは見覚えの無い部屋だった。
古ぼけた客船の一室のようなその部屋で、真っ先に彼の目に止まったのは扉に書き殴られた文字。そこには真っ赤な塗料で『5』という数字が記されていた。

閉じ込められた密室の中、一人茫然と佇む淳平。
目覚める前の最後の記憶を辿ると、ガスマスクを装着した謎の男の姿が浮かび上がった。
その人物はこう言った。

「これからお前にはゲームをしてもらう。
【ノナリーゲーム】――。生死をかけた運命のゲームだ。」

かくして沈み行く船の中で、恐怖の脱出ゲームが始まる。
▼Points Check
--- Good Point ---
◆パズル性の高い脱出ゲームと分岐要素のあるアドベンチャーゲームを融合させた、独自色に富んだゲームデザイン
◆捻りの効いた解法と『数字根』による独特のネタが盛り沢山の脱出パート
◆優し過ぎず、難し過ぎずの適度な手応えが心地良い、脱出パートの絶妙な難易度設定
◆上画面にキャラクター同士の会話を表示し、下画面で状況解説文を表示するというDSの二画面構成を効果的に活かす棲み分けが施されたテキスト演出
◆ニンテンドーDS以外では実現不可能なストーリー(真のエンディングルートをプレイすれば、その意味が分かる!)
◆数多くのどんでん返しに想定外の緊急事態など、プレイヤーを翻弄する展開が盛り沢山のルートごとのストーリー構成
◆見た目の奇抜さと個性付けが見る者に強烈な印象を残す登場キャラクター達
◆一部のボタンとタッチペン以外はほとんど使わない、シンプルで取っ付き易い操作性
◆9つの異なるエンディングに個別ルートなど、意外と充実している総計ボリューム
◆見た目こそ地味だが、キャラクターアニメーションの異様な滑らかさが異彩を放つグラフィック
◆ストーリー設定と絶妙にマッチした、ミステリアスで緊迫感溢れる音楽
◆音楽の切り替え、一枚絵など盛り上げるべき所では徹底的に盛り上げる、空気を読みまくった演出

--- Bad Point ---
◆タッチペンの当たり判定が狭く、少しぎこちなく感じる部分のある操作性
◆既読文章を読み飛ばすに当たって便利だが、その速度が遅い上、十字キーの右を押しっぱなしするという操作のおかしさが尾を引くスキップ機能
◆理由付けがされているとは言え、一度クリア済みでも飛ばせない作りの脱出パート(特にルート制覇をするに当たっては大きなストレス材料と化す)
◆無駄に想像力を刺激する、凄惨な光景の解説テキスト(苦手な人には結構応える内容)
◆真エンディングの結末(一応、決着はするのだが…?)
◆ある意味、外出先のプレイでは向かない作りの真エンディングルート(特にそこでしか登場しない脱出ゲーム)
◆個性付けは面白いが、結構、好みが分かれ易いキャラクターデザイン(少し濃い目)
▼Review ≪Last Update : 11/18/2012≫
2+3+5=10=?

さあ、その扉を潜るのです。


密室を始めとする閉鎖環境からの脱出を目指す、パズル性の高い内容で根強い人気を誇る『脱出ゲーム』に濃い目のストーリーと分岐要素などを織り交ぜた、チュンソフト製作による完全新作の脱出アドベンチャーゲーム。

ニンテンドーDS独自のストーリーと演出で魅せる、衝撃の意欲作だ。

ゲーム内容は先ほどの繰り返しになるが、脱出ゲームとアドベンチャーゲームの二つを絡め合わせた脱出アドベンチャーゲーム。謎の豪華客船に監禁された主人公、淳平となり、同じく船に監禁された8人の仲間達と協力し合い、船からの脱出を目指すというものである。
船からの脱出は、彼らを監禁した黒幕『ゼロ』が催す『ノナリーゲーム』なる特殊なゲームを攻略しなければならない。『ノナリーゲーム』とは、9時間以内に『9』と記された『ナンバリングドア』を見つけ出すゲーム。これを発見して扉を開け、その先へと進めば脱出成功となる。但し、9の扉を始めとするナンバリングドアを開けるには、淳平達が腕に着けた時計型起爆装置『バングル』に表示された数字を組み合わせて『数字根』を作る必要がある。『数字根』とは、各バングルの数字を足し算して2桁以上の答えを導き、その2桁の数字を二つの数字に分け、再度足し算して導き出された数字の事である。例えるならば、以下のような感じ。

(1)1+5+6=12
≫まず最初に数字を足し、2桁以上の答えを導く。

(2)12=1+2=3
≫次に答えを二つの数字に分けて足し算。そこから導き出された答えが『数字根』。

上記の例では3になるので、『3』と描かれた扉を開ける事ができる。なお、扉の解除は『RED』と呼ばれる端末に手を当てる形で行われる。数字根が入力されると扉が開くが、中に入ると同時に淳平達の体内に仕掛けられた爆弾の時限装置が発動。直に扉の先にある『RED』を発見し、数字根を入力すれば時限装置は止まるが、81秒以内に解除しなければ「ドカン」となる。以上、長々と解説してしまったが、これが『ノナリーゲーム』のあらまし。このような過程を踏みながら、プレイヤーは9の扉を目指す。
本編は会話主体のアドベンチャーパート、そしてパズルを解く脱出パートの二つを軸に展開する。アドベンチャーパートは会話とストーリーが展開するパート。ここで『選択肢』が登場し、それによって入る扉を決めていく事になる。なお、先ほどに時限装置云々と解説したが、これは基本的にストーリー上で行われるので、プレイヤーは特に気にする必要はない。但し、後者の脱出パートでは『数字根』の謎解きが登場するので、仕組みを覚えておいて損は無い。脱出パートは扉の先の部屋に入ると同時にスタート。そして、このパートを攻略するとその先へと進み、再びドア選択となる。以降は繰り返し。このような仕組みで本編は進行していくようになっている。事実上のメインに当たるのは脱出パート。先ほども少し触れたが、謎解きを行うパートで、行動範囲の限られた閉鎖空間(密室)を舞台に、次のナンバリングドアへと繋がる扉の鍵を見つけ出すのが主な目的となっている。謎解きは基本的に数字をテーマとしたものがほとんど。先の『数字根』のネタも登場し、所々で試行錯誤が求められてくる。ただ、謎解きの難易度自体は控え目。ヒントも豊富なので、基本、直感で解ける程度に抑えられている。また、ストーリーへの影響、選択ミスによるゲームオーバーなどのシビアな要素も皆無。気軽に楽しめるので、謎解き要素に抵抗のある方でも安心して遊べる作りになっている。脱出メインとは言え、ストーリー要素を強く推し出しているので、その辺の配慮としてこの難易度設定は適切。良いバランスでまとめられている。無論、だから言って、謎解きが凄く簡単という訳でもなく。その辺の兼ね合いがしっかりしているのも、大きな特徴である。
肝心のストーリーの内容も、脱出メインと言いながらも結構濃い目。単純に9の扉を目指すだけと思わせて、その途上でバッドエンドに到達してしまったりなど、この手のアドベンチャーゲーム特有のトラップもしっかり仕込まれている。エンディングもマルチエンディング制となっていて、真のエンディングに辿り着く為のルートを探すと言ったストーリー的な謎解きも仕込まれているので、やり応えも抜群だ。内容のみならず、画面構成も上画面で会話が展開され、下画面では状況解説のテキストが表示されるというDSならではの設計になっていて面白い。この画面構成を活かしたDS独自の演出が仕込まれているのも見逃せないところだ。
脱出を目指すゲームでありながら、ストーリーが分岐したり、思わぬ所に辿り着いてしまったりなど、一筋縄では行かないほどにその全容は複雑。ゲーム部分だけでなく、ストーリーにおいても文字通りに脱出を目指さなければならない為、純粋に脱出だけを目指すゲームとは一線を画す作りとなっている。まさにこれぞ脱出アドベンチャーゲーム。ありそうでなかった、独特の味わいと緊張感に満ち溢れた内容に仕上げられている。

そして、今作最大の売りは脱出が目的のゲームとしては異色のストーリー性の高さだ。例え苦労して密室からの脱出に成功しても、平和な方向へ話が進むとも限らない。最悪、バッドエンドに繋がり、何の真相も分からぬまま、話が終わるなんて事が普通に起こり得る。そんなゲームだけでなく、ストーリーを読む解く部分においても脱出を目指さなければならない作りが他のアドベンチャーゲーム、脱出をメインとしたゲームにはない、斬新な味わいと緊張感を醸し出している。
特にストーリー構成の複雑さはなかなかのものだ。結末だけでも全部で9種類、中には先にも少し触れたが、特定のエンディングに到達しないと解放されないルートもあるので、非常に攻略し甲斐がある。また、そのような構成故、本編は周回プレイを前提としており、真のエンディングを目指すには分岐パターン、トライ&エラーなどの検証が必要とされてくる。その結末を探すだけでも、かなりのボリューム。プレイスタイル自体は地味で、作業的な所もあるが、結末自体が多彩で、意外性の強いものばかりとなっているので、相当な充実感を得られる内容に仕上げられている。
また、ストーリーは構成だけでなく、中身も大変魅力的だ。今作のストーリー及びゲーム全般のディレクションは、「記憶を失ってまでもう一度、プレイしたい」とまで絶賛されたアドベンチャーゲームの伝説的名作『Ever17 -the out of infinity-』のシナリオライターの一人でもあった、打越鋼太郎氏が担当。『Ever17』に代表されるように、氏の手掛けるシナリオはゲームという媒体を最大限に活用した、唯一無二の演出を取り入れる事に定評があるが、その作風は今作でも如何なく発揮されている。言うまでも無く、今作におけるその手の表現がどう言ったものなのかは致命的なネタバレとなる為、口が裂けても紹介する事は不可能だ。唯一言えるのは、ニンテンドーDS以外のゲーム機では表現が無理に等しい内容になっているという事だけ。他のゲーム機では真似するのは100%どころか、120%不可能な演出が仕込まれているのである。例によって、この演出は真のエンディングにおいて、拝む事ができる。DSだからこその演出とは一体何なのか。本当にDS以外のハードでは表現できないほどのものなのか。誇張表現じゃないのか。そんな風に疑っている方ほど、是非とも実際に今作をプレイし、御覧になって頂きたい。嫌というほど、今作がDSの為に作られたゲームである事を思い知らされるだろう。
DSならではの演出以外にも、プレイヤーの裏の裏をかく展開の数々、一癖も二癖もあり過ぎる8人の仲間達など、ストーリーでの見所は多い。前者に関しては、意外な人物が死んでしまったり、思いもしなかい関連性が判明したりなど、プレイヤーを惹き付けて離さない展開が目白押し。さすがは『弟切草』や『かまいたちの夜』、『街』などの名作サウンドノベルを世に輩出してきたチュンソフトだと思い知らされる、納得の仕上がりになっている。先の繰り返しになるが、9種類の結末の中にも「は!?」と思わず声を挙げてしまうものも幾つかあるので、人によっては呆気に取られてしまう事もあるかもしれない。後者も見た目にせよ、中身にせよ、無駄にインパクトが強い。裏に禍々しい性格を潜めた者、見た目からは想像も付かない設定が凝らされた者など、どのキャラクターもプレイヤーに強烈な印象を残す。
只でさえ、演出面で凄いネタを仕込みながら、基本的な部分にしても強烈なものを大量に仕込むこの徹底振り。先の演出のみならず、これらの部分でも、今作が如何にストーリー面に力を入れて作られているかを大いに思い知らされるだろう。
無論、事実上の本編である脱出ゲームも解き甲斐のある作りで、一貫して『数字』のテーマに則った、統一感を意識した作り込みが成されているのが素晴らしい。単に謎を解くだけでなく、攻略中にちょっとしたストーリーが挟まれるなど、中だるみさせない為の配慮も万全で、集中して謎解きに取り組めるのも秀逸だ。
ただ、繰り返しを想定した構成な為、ルート検証の度にクリア済み脱出ゲームの再プレイを何度も強いられるのは素直に辛い。無論、これはストーリー上で理由付けがされており、真のエンディングでそれが明かされるのだが、それでも面倒臭さがあるのは否めず。願わくば、クリア済みはオート展開にする配慮が欲しかったところだ。また、早送り機能ことスキップも少し遅かったり、一部は不可能であったりと気が利いてなく、快適とは言い難い作りなのが悔やまれる。折角、ストーリーの出来が良いのに、こういう所で落としてしまっているのは勿体無い限りだ。
そう荒削りな部分もあるが、脱出ゲームとストーリーの融合というコンセプトをここまで見事にまとめ上げ、尚且つ唯一無二の味に満ちた内容に仕立て上げた手腕の高さには感服させられるものがある。それでいて、肝心の脱出パートにしても、ストーリーのテーマである数字にまつわるネタをメインとし、完璧な統一感を演出しているのだから凄い。
DSならではの演出もそうだが、プレイしてみれば、今作が如何にこのゲームでしか味わえない遊びと体験に対し、真剣に向き合って作られたかを痛感させられる事だろう。荒くもあるが、手応えは斬新そのもの。それでいて、記憶に残るほどのインパクトもあり。そうまでも強烈な個性を持った作品として完成されているのである。

また、脱出ゲームに関しては数字のテーマに一貫した作りだけでなく、バリエーションが多彩で、使い回しが少ないというのも素晴らしい。ゲーム自体も基本的にはタッチペン操作だけで楽しめる、シンプルながらもやり甲斐のある物が充実しており、プレイヤーを全く選ばないラインナップになっているのが見事だ。
更にこちらにも、先の真のエンディングと似たDSでなければ到底無理な謎解きが用意されている。例によって詳細は秘密だが、実際にそのゲームが始まった時、誰もが目を疑うことだろう。
操作性に関しても、その脱出ゲームの操作方法から明らかだが、基本的にはペン一本と十字キーとの組み合わせで遊べてしまうので、取っ付き易さは上々だ。ただ、ペン操作に関しては当たり判定の部分がやや狭く、ぎこちなさを感じる所があるのが残念。あえて入力対象を分かり易くする為、色で示すなどの配慮を凝らしても良かったかもしれない。また、スキップ操作も十字キーの右を押しっぱなしにしなければならない作りは難あり。ここはボタンを一回押せば始まる、単純な仕様にすべきだった。結果的に、親指を痛め易い設計になってしまっているのが何とも残念ではある。
その他、グラフィックは見た目こそ地味。しかし、キャラクターの動きが異様に滑らか。ヌメヌメと動くその仕草には、2Dの本気というものを思い知らされるだろう。音楽もミステリアスで緊張感のある曲が豊富で、ストーリー設定とよくマッチしている。何気に作曲担当が『リッジレーサー』シリーズなどで知られる細江慎治氏であるというのも見逃せないところだ。

演出周りも丁寧に作られており、盛り上げる場所では徹底的に盛り上げたりと、緩急の付け方が自然。しかし、何よりも演出の凄さを象徴するのは真のエンディングルートにおけるDSならではの描写だろう。これだけでもインパクトは十分。しつこいが、他のハードでは到底味わえない感動と衝撃を堪能できるだろう。
使い勝手の悪いスキップ機能、タッチ判定の曖昧さ、そして一つしか管理できないセーブデータなど、不便を感じる部分が残されているのは何とも勿体無い。だが、脱出ゲームとストーリーが絶妙に融合したゲームデザイン、DSだからこその演出と見応え抜群のストーリー、数字のテーマにこだわり尽くした謎解きネタなど、個性の強さはピカイチ。ストーリー性を重視しているが故の程好い難易度設定も素晴らしく、頭を使うゲームには抵抗があるというプレイヤーも、気楽に楽しめる設計になっているのも秀逸だ。だが、最大の見所はDSらしさにこだわり尽くしたストーリーであり、それを見るだけでも十分過ぎる満足感と他にない感動を堪能できる今作。多少、遊び難さはあるが、個性の強い作りが異彩を放つ良作である。アドベンチャーゲームや脱出ゲーム好きは言うまでも無く、DSをお持ちの方もプレイする価値大いにあり。ここでしか味わえない感動と衝撃を是非、体験してみよう。個性の強さ故に多少、癖もあるが、大変お薦めの逸品です。
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