Written in Japanese. Japanese fonts required to view this site / Game Review & Data Base Site
  1. ホーム>
  2. Review Box>
  3. Game Boy>
  4. X(エックス)
≫X(エックス)
■発売元 任天堂
■開発協力 アルゴノート・ソフトウェア(現:アルゴノートゲームス)
■ジャンル アクション
■CERO(推定) A(全年齢対象)
■定価 3900円(税別)
■公式サイト ≫こちら
▼Information
■プレイ人数 1人
■セーブデータ数 1つ(※バッテリーバックアップ:リチウム電池形式)
■総説明書ページ数 41ページ
■推定クリア時間 7~12時間
宇宙世紀XXXX年。
増え過ぎた人類は、地球上に住むべき大地を失った。

人々は移住先を求めて宇宙に進出。
その末、地球に似た環境の惑星『TETAMUSII(テタムスII)』を発見した。
また調査の結果、計り知れないパワーを持つ鉱物資源『POWER CRYSTAL(パワークリスタル)』の存在を確認。後に人類はその発掘に成功し、パワークリスタルを利用するエネルギー施設『NUCLEAR SILO(ニュークリアサイロ)』を建設。彼らは自分達の輝かしい未来を信じて疑わなかった。

だがある日、パワークリスタルを運搬中の輸送艇が何者かの攻撃によって撃墜されたとの情報が入る。
後の調べで、輸送艇を撃墜したのは宇宙征服を目論むエイリアンであった事が判明。
彼らはテタムスIIを軍事拠点として悪用しようと企てていたのだ。

この脅威を退けるべく、地球より最新鋭宇宙戦闘タンク『VIXIV(ビクシブ)』が発進。
かくして新たな安住の地を守る為の激しい戦いの幕が切って落とされた。
▼Points Check
--- Good Point ---
◆陸空を自在に動き回る戦車を操縦して3D空間を駆け巡り、ミッションを攻略していくという、ゲームボーイのハード性能からは想像できない驚愕の試みが炸裂したゲームデザイン
◆ワイヤーフレームで立体的に描写された、ゲームボーイらしからぬ立体的なグラフィック
◆ゲームボーイのハード性能上の制約を活かした工夫と入り組んだ操作感、武装切り替えシステムで魅せる、個性的過ぎる自機『VIXIV(ビクシブ)』
◆基本操作からアクションの特徴まで一つ一つ事細かに教えてくれる、説明書要らずの丁寧なチュートリアル
◆疑似的な表現ながら、しっかりと箱庭空間として表現された広大なフィールドマップ
◆メインフィールドとは異なるスピード感と独自のスクロール演出で魅せる『トンネルシーン』
◆物資の回収、敵エイリアン兵器の撃破、人質の救出など、変化に富んだ遊び応え抜群のミッション(ミッションに応じてマップの施設も変化すると言った細かい作り込みも秀逸)
◆簡易マップの実装からテキストによる状況報告など、地味ながらも遊び易さを配慮した作り込みの数々が光るインターフェース周り(文字フォントの大きさも結構良心的)
◆量より質の密度を重視した構成で楽しませてくれる、程々なボリューム
◆シチュエーションに応じて異なる楽曲を流す等、演出面での工夫が光る音楽(曲の出来も秀逸)
◆筋は王道ながらも、緊迫感溢れる展開と小気味よいテキストで楽しませてくれるストーリー
◆ゲームボーイらしからぬ描写盛り沢山の演出(また、ゲーム起動時には…?)

--- Bad Point ---
◆セーブとコンティニューが有限方式且つ、クレジットが尽きると問答無用で最初からやり直しになるなど、全体的にコアなプレイヤーを前提としたシビアさを持ち味とした難易度
◆チュートリアル実装済みとは言え、それなりの慣れが要求される操作性
◆ハード上の限界もあって、総じて低めなフレームレート(キーレスポンスも鈍い)
◆ザックリと全体図を描写している故、一目では分かり難い作りの簡易マップ
◆ミッションで変化を付けているとは言え、殺風景な感は否めないフィールドマップ
◆鬼畜過ぎる最終ミッション(ある武器を使い果たしていると大変な事に…)
▼Review ≪Last Update : 1/24/2016≫
最初は指示通りに行動しましょう。

無視すれば「ビシッ!」と指導されますよ。


1980年代にAmiga、コモドール64向けに『Starglider』シリーズ、『Race Drivin'』と言った、3Dゲームを数多く製作してきたイギリスのゲーム開発会社、アルゴノート・ソフトウェア(現:アルゴノートゲームス)開発のゲームボーイ向け3D技術を用いて製作された、完全新作のアクションゲーム。ゲームボーイ生みの親、横井軍平氏が率いる任天堂開発一部とアルゴノート・ソフトウェアの共同開発によって制作された作品でもある。

後にも先にも無い、ゲームボーイ初の3Dアクションゲームにして、唯一無二の野心作だ。

ゲーム内容は一人称(主観)視点で展開するミッションクリア型3Dアクションゲーム。陸空を自在に動き回る最新鋭宇宙戦闘タンク『VIXIV(ビクシブ)』を操縦し、惑星『テタムスII』を舞台に物資の回収、宇宙征服を目論むエイリアンが送り込んできた兵器との戦いと言った危険なミッションを遂行していくというものだ。
本編は司令官とのブリーフィングとミッション本番の二つを繰り返す形で展開。基本的に目的達成でミッションクリアとなり、次のミッションへと進む。また、クリアしたミッションは後からやり直す事も可能。ただ、やり直すに当たってはミッションクリア時に手に入る『★』が一定量必要となり、不足していると再開はできない。更にゲームオーバーになって再開する際も『★』が必要となり、これまた不足していると一番最初のミッションからやり直す事になる。一応、プレイ記録は内蔵のバックアップ機能によって保存される仕組みになっているが、そのようなハンデが設けられているので、作りは意外とシビア。任天堂のゲームにしては良くも悪くもらしくない、アーケードライクな特徴が色濃く現れたものになっている。
また先の通り、今作は主観視点で展開する3Dアクションゲーム。故に舞台となる惑星『テタムスII』のフィールドは完全な箱庭空間になっており、360度自由に動き回れるというゲームボーイのゲームらしからぬ…という以上に本当にゲームボーイのゲームなのかと疑ってしまうのも止む無しの驚きの作りになっている。あえて繰り返すが、今作は正真正銘の3Dのアクションゲームだ。箱庭空間を駆け巡って敵と戦ったり、物資を回収しながらミッションをこなしていくのだ。そんなまさか!?ゲームボーイって2Dのゲームしか作れないだろ!?白黒じゃん!ポリゴン描けないじゃん!…と色々言いたくなるかもしれないが、マジだ。3Dのアクションゲームなのだ。しかも、グラフィックもキャラクター周りが全てポリゴンで描写されている。一応、テクスチャ(表面画像)無しのワイヤーフレームだけで描写したもので、ハード性能上の都合が現れた仕上がりなのだが、カートリッジ内に特殊なチップを実装せず、ゲームボーイの処理能力だけで実現させているという化け物染みたものになっている。なので、見た目のインパクトも絶大。加えて変態的な技術力も炸裂しまくりという、ゲームボーイの恐るべき可能性と未来を感じさせられる仕上がりになっている。更にこれまたハード性能上の都合もあり、フィールドは一つのみであり、ミッションごとに違った箱庭空間が舞台となったりはしない。終始、固定のまま。ただ、ミッションごとに敵が変わったり、新たな施設が登場するなど、同じ舞台でありながらも差別化を図る作り込みが成されているので、概略ほど物足りなさを感じさせないものになっている。箱庭空間特有の広大さからくる目的の分かり難さを払拭する為の配慮も万全。東西南北(EWSN)を指すコンパスが実装されているほか、現在のプレイヤーの位置や目的地、施設を示す簡易マップも常時表示されるようになっている。また、フィールドは6つのエリアで区分されているほか、そのエリア間を繋ぐ『トンネルエントランス(トンネル)』と呼ばれる強制スクロールで進行するショートカットルートも配備されているなど、移動時間を短縮する為の配慮も成されている。
それでもフィールドはどの方角から見ても殺風景且つ、遠方が見えないので、どちらに動いているのかを見失い易いなど、限界を感じさせられる箇所も少しあるのだが、理不尽なまでにやり難いという事も無く、スムーズに移動していける仕上がり。簡素ながらも3次元の箱庭空間を見事に描き切った仕上がりになっている。正直、無茶振りも無茶振りなのだが、しっかりと箱庭空間として成立した仕上がりには度肝を抜くこと必至。まさに神業炸裂なのである。
そして、この驚異の箱庭空間を動き回る際に当たって操縦するのが『VIXIV(ビクシブ)』。これもまた、個性的且つ、癖のある自機になっている。一言で言ってしまうと、複雑で多機能。操作を覚えるだけでも相当な練習が必須となる仕様である。特にそれを体現するのが移動周り。基本的に十字キーの上を押すと前進する仕組みになっている。あくまでも押しっぱなしではなく、「押す」というのがミソ。いわゆる、ギア方式なのである。そう言った特色故、十字キーの上を更にもう一度押す事で、速度調節もできる。速度は四段階あり、その場に留まる『STOP』、遅めの『LOW』、普通の『MED』、最高速の『HIGH』。更にもう一段階として、十字キーを押し続ける事で『HIGH』を上回る『TURBO』状態になる。ただ、この『TURBO』状態になると『燃料』が消費される為、ずっと使い続ける事はできない。そう言った数種類の速度を状況に応じて切り替えながら、プレイヤーはフィールド上を駆け巡りつつ、ミッション遂行や敵との戦闘をこなしていく事になる。更にこの『VIXIV(ビクシブ)』は空まで飛べる。フィールド上にあるピラミッド型のオブジェに『TURBO』状態に乗っかる事で、そのまま飛行モードへと移行し、空中を自在に動き回れるようになるのだ。ただ、この飛行状態ではスピード調節ができなくなるのに加え、燃料を消費し続けるのでずっと飛んでいる事はできない。また、敵の攻撃を受けると強制的に飛行状態が解除。便利ではあるが、危険な部分を幾つか持つ機能と言った趣で、使いどころが試されてくる作りになっている。
また、攻撃周りも独特。基本攻撃はAボタンで発射する『レーザービーム』なのだが、射程範囲内に敵が居ると照準の範囲内にエイミングカーソルが出現し、この際に発射すると敵に確実に命中するという仕組みになっている。更にBボタンを押す事でフィールド上にある施設『レーダー基地』で装備した強力な兵器を発射できる。『レーダー基地』で装備できる武器は全部で四種類あるのだが、いずれも有限制且つ、装備できるのは一種類のみ。敵によっては全く効かないものも存在するので、それに応じた武器を装備すると言った戦術も試される。また、武器の残弾数は後のミッションに継承される仕様。その為、前のミッションでイタズラに使い過ぎると、弾不足で倒せず詰みかける…なんて目に遭ったりも。そんな先を見据えた戦略も求められてくるところもあったりと、一筋縄では行かない側面も併せ持っている。
他にもミッションの目標を探し出す『ファインダー』なる機能、至近距離にあるアイテムを自動回収する『トラクタービーム』と言ったものが実装されているのだが、その辺は割愛。このように、とにかく複雑で癖が強い。とても最初に一回触れただけで直感的に動かすだなんて無茶に等しい自機になっている。しかし、その辺の配慮は万全。と言うのも、今作はゲーム開始と母星こと、地球を舞台とした『VIXIV(ビクシブ)』の使い方を学習するトレーニングから始まるようになっている。このトレーニングでは、先の基本的な操作の全てを練習する事ができ、説明書を入念に読まずとも基本的な事はほぼマスターできる。更にこのトレーニングをクリアしないと、ミッション本編には絶対に進む事ができない。操作に慣れてないものは死地に向かうな、と言わんばかりに割り切っているのだ。その為、いきなり本番となって理不尽な目に遭ったりする事も無し。複雑な操作を特色とするゲームだからこその配慮も成されているのだ。如何にも任天堂らしいまとめ方。そう言ったプレイヤーを締め出さない作りも今作の特色の一つだ。
以上、少し削った所もあるが、こう言った感じに今作はゲームシステムにビジュアル、自機の操作に至るまで全てにおいて斬新としか言い様がない仕上がり。ハードの制約をものともせず、表現限界にまでに3Dの箱庭空間を構築し、そこに今までにない操作感とアクションを盛り込むという、圧倒的な独自性と化け物染みた技術力が光る作品に仕上げられている。まさにゲームボーイの革命的一作。こんなの後にも先にも無い(※実際、本当に無い)と言っても不思議で無いほど、唯一無二の要素が詰まったゲームになっている。

例によって、今作の魅力はゲームボーイで3Dのアクションゲームを作ってしまったというその無茶振りである。先の通り、今作はゲームボーイ本体の処理能力のみで3次元の箱庭空間を構築している。今作の後に出たスーパーファミコンの『スターフォックス』が特殊チップを内蔵して3D表現を行っていたのを考えると、とんでもない荒業。ポリゴンにテクスチャを貼り付けられないという決定的な差はあれど、ゲームボーイのCPUだけでここまでの物が作れてしまうのかと、単に見るだけでも圧倒される仕上がりになっているのだ。
特にワイヤーフレームで描かれた敵兵器、アイテムと言ったオブジェクトの立体的な描写と生々しい動き、ミッションブリーフィング時のデモシーンはゲームボーイの持つ処理能力の本気が詰め込まれた仕上がりになっている。更に3D空間が舞台というだけあって、敵兵器や地形、アイテム等の拡大と縮小、回転に関しても粗くありながらもしっかり表現されており、ハードでサポートしていない機能をソフト側で行ってしまっているのにも度肝を抜かれる。それはミッションブリーフィングのデモシーンもまた然りで、ゲーム開始早々に画面奥から回転しながらやってくる司令官の顔グラフィックはなかなか衝撃的。シュールさも凄まじく、衝撃以上に笑撃の方が上回るかもしれないが、ゲームボーイではほぼ無理な事をやってのけてしまっているのには本当に驚かされる。その高い技術力と優れたデザインには、その部分全般を手掛けたプログラマーとデザイナーがどれほどの凄腕であるのか、というのを存分に思い知らされるだろう。
3D表現だけでなく、肝心のゲーム本編の作りも非常に凝っている。中でも自機『VIXIV(ビクシブ)』の多機能性、独特の操作感は、慣れれば慣れるほどに作り込みの深さが伝わってくる仕上がり。同時にゲームボーイ特有の3D表現を実現すべく製作された、今作ならではの自機という唯一無二の存在感を放っている。そもそも何故、陸も空も飛ぶ戦車が自機なのか、不思議に感じる所はある。3Dなら人間のキャラクターでも良いのではないのかと。それに一人称視点ではなく、三人称視点にしてこそなのではないかと。だが、そのようにすると、返ってハード性能の限界からゲームとして成立しなくなる恐れがある。人間であれば移動速度が自在な反面、急な方向転換の操作を行う際にフレームによる反応遅延が発生し、プレイヤーの思い通りに制御するのが難しいキャラクターになってしまうし、三人称なんてなおのこと。画面上に表示するオブジェクトが増えてしまうので、余計に処理が重くなってガクガクになってしまう。そんなのではゲームとして成立させる事すら不可能同然だろう。そう移動時の反応遅延に違和感を残さず、且つ処理能力を必要以上に落とさずにゲームとして成立させる為にはどんなキャラクターと視点を据えるべきか…と考えると、今作の戦車という設定と一人称視点は非常に理に適っているのだ。戦車でギア方式であれば、僅かなズレが発生する事に一定の説得力が持てるし、一人称だからこそ処理を軽くできる。それでいて、ある程度のスピード感と3Dの箱庭空間を駆け抜ける面白さも残せるなど、まさにゲームボーイの性能で3Dを実現させるに当たっては適切な設定を持った自機として作られている事が分かってくるのだ。実際にそんな意図を込めて作ったのかは製作者のみぞ知るところだが、ハード性能の能力を踏まえた上でのキャラクター設定とデザインを成している辺りには、今作が技術ありきで作られたゲームである事がよく現れている。同時にその独自の設定により、ゲームボーイだからこそこの自機という唯一無二の個性を引き出しているのだからさすがだ。技術で可能な範囲で最適なプレイ環境と自機を構築する。最初にキャラクターや専用の自機ありきで作られるゲームというのはアクションに限らず多いものだが、今作のように先に技術があってそこから自機としてデザインが起こされたと言える作りには、プログラムありきで作られた正真正銘のゲームとしてのらしさが現れていて秀逸。そして、機能を軸に自機を構築しているという所に任天堂のゲームとしてのらしさも感じられるのがユニークだ。同じ形で自機のデザインが確定した例では『F-ZERO』があるが、あれに近いコンセプトが今作にも成されている辺り、宿命というものを感じさせられるところだ。
必然性の高さだけでなく、3D空間を動き回るゲームならではのフォローの豊富さも秀逸。簡易マップにコンパスなど、どれもが3D空間を動き回る際の負担を軽減するものとして活かされている。そのような配慮が成されているのも、今作の自機の特性とそこから来るゲーム面の懸念をしっかり検証した事の現れ。単に表現の斬新さだけで終わらせようとしまい作り込みにもまた、今作をちゃんとゲームとして成立させる製作陣の熱い意気込みを感じさせられるところである。
その意地は本編のミッションにも表れており、フィールドが一つしかない難点を完璧にフォローしたバリエーションの多彩さは実に秀逸。一つしか無いからこそ、思い付くネタは余す事無く注ぎ込もうとする執念が現れている。ミッションにも面白いものが幾つかあり、その中でも科学者を救出するミッションは必見。このミッションに限り、キャラクターが一枚絵で描かれるのだが、これが良い意味で悪ノリ全開の内容になっている。ミッション攻略中には一部、シュールで非情なシーンもあり、思わず笑ってしまう作りにもなっているので要チェックだ。
ただ、裏目に出た所も幾つか。特に難易度は苛烈に設定し過ぎな感が否めない。主に護衛ミッションにてその厳しさが出過ぎており、本編最大の壁になってしまってる。更に一部のミッションを除き、制限時間があるのだが、これがフィールド移動中に方向が分からなくなる事と嫌な形でリンクし、余計に難易度を上げてしまっている。これもミッションだけに限るとか、そういう措置を取っても良かったのではないだろうか。そんなやり応えを追求し過ぎて、本当にマニアなプレイヤーで無いと全ミッション攻略が困難なバランスとなってしまったのは純粋に失敗と言わざるを得ないだろう。とは言え、それを含めてもゲームボーイのハード性能だけで構築した3D空間が醸し出すインパクトは強烈。難しいゲームではあるが、その3D空間に少し触れるだけでも意義があるゲームなのは言うまでもない。色々限界を感じる箇所もあるが、ハードのCPUだけで作り上げたにしてはやり過ぎ同然の出来栄えは冗談抜きに一見の価値あり。人を選ぶが、今作ほどゲームボーイを持っているなら一回は体験しておくべき作品というのも無いだろう…。それほど高い価値を持つ内容なのだ。

その他、ボリュームもミッション総数10と、数だけで見るなら少なめだが、1つのミッションごとのボリュームは結構なもので、中には20分以上かかるスケールの大きなものまであるほか、基本の難易度自体が高めなのもあって密度は非常に濃い。やり込み要素はほとんど無く、普通にエンディングに到達したらそこまでの内容ではあるが、到達するだけでもかなりの疲労感と充実感を得る事ができるだろう。まさに量より質を突き詰めた内容となっている。
地味ながら、インターフェース周りも凝った仕上がり。体力ゲージや敵接近時の警報、目的地が接近した際の矢印による案内表示など、パッと見るだけでどういうものなのかが理解できるものに仕上がっている。細かな配慮で、ミッションの目的や現在の行動状況等も日本語テキストでしっかりと表現されるのも良心的。文字フォントも適度な大きさで見易く、それでいて漢字も適度に使われているので読み易いなど、気を遣った作りになっているのも秀逸だ。
そして、そのテキストと併せて描かれるストーリーも波乱万丈。突っ込み所も幾つかあるが、緊迫感を煽るデモシーンの演出とテキストで魅せまくる。途中、放射能が漏れて生物が巨大化して暴れ出すブラックな展開もあったりなど、やりたい放題な描写が炸裂しているのも必見だ。2016年現在の今見ると、かなりアレな内容とも言えるが…。
また、何故か人の形をした戦車、その名も『ヒューマノイドタンク』に先の巨大生物など、敵のグラフィック(デザイン)も大きな見所。一体、どうしたらそんなネタが思い付くんだと突っ込みたくなるほど、インパクトのある面々が登場する。プレイヤーに指令を与えるキャラクター、司令官もポリゴン全開の見た目と登場シーンのシュールさ、会話時にしっかりと口元を動かしたりとインパクト抜群。見た目は四角形等の図形の集合体なのに、何故だか愛らしく見えてしまうその仕上がりには、デザイナーの本気と奇抜なセンスというものを感じてしまうかもしれない。

ミッション本編、イベントシーンを盛り上げる音楽も素晴らしい出来。特に『トンネル』内での疾走感溢れる楽曲は非常に耳に残るものになっている。敵の接近が迫ると緊迫感のある音楽に変わるなど、演出周りでも凝った仕掛けが凝らされているほか、それらで流れる音楽も耳に残るものばかり。非常に完成度の高い仕上がりになっているので要チェックだ。
更に効果音もなかなかの仕上がりなのだが、ヘッドホンを付けてプレイしていると耳に影響を及ぼしかねない甲高い音があるのはタマにキズ。特に最初のパワークリスタル回収ミッションではそのような音が鳴り響くので要注意。それもあって、プレイするに当たってはスーパーゲームボーイなど、テレビでやるのがベストかもしれない。
その他、演出絡みでは、少し面白い所でゲーム起動時の任天堂のロゴも注目。普通のゲームボーイソフトなら『Nintendo』と表示された後、そのままタイトル画面へと移行するのだが…?これ以降は実際にゲーム本編でご確認いただきたい。そんな所にまで手を加えているのかこのゲームは、と驚くこと間違いなしだ。
全体を通して難易度周りが高めのほか、性能的に限界まで突き詰めているだけにフレームレートは低めでレスポンスも悪いなど、粗削りな部分も目立つ。しかし、そんな所も含めて強烈な個性を持った作品ではある。ハードの性能だけで構築した3D空間に適切且つ、自然なデザインと多機能な自機、そして骨太なゲーム内容と任天堂らしからぬマニアックな作風が炸裂した今作。癖が強いので万人には薦め難いが、ゲームボーイをお持ちの方ならば一度は遊んでみる価値のある衝撃且つ、唯一無二の野心作だ。白黒の液晶画面で3次元の箱庭を作り上げてしまっているだけでも衝撃性と独自性は抜群。その驚くべき完成形を拝むべし。でも、難易度高めのゲームという事だけは念頭においておきましょう。
≫トップに戻る≪